七色は前触れの味
「今日は親睦会ということで、クラスで一つの依頼を受けてもらいます」
顔だけ教室に入っている状態で、何の脈略もなくそう言い放った。
中等部では依頼を受けることが授業となるので、基本的に自由なのだ。依頼を受けてランクを上げるも良し、学園にある訓練場を使って特訓するも良し、はたまた、街に繰り出して遊ぶも良し。成績なんかはランクで決まるので、結果的には依頼をまったくしない、という人は出てこないが、中等部は本当に自由なのだ。なので入学式などの特別な行事以外の日は、出席をとるだけで教師の役目が終わる。ましてや担任はこのマグ先生だ。すでに出席簿を教卓に置きっぱなしで、出席印を書くのはセルフサービスになっていた。
なので入学式を終えた今、マグ先生が教室に来るのは異常なことだった。だがクラスメイトたちは動揺しない。慣れた、というのも一つの理由だが、彼らの頭の中には一つの噂がよぎっていた。それは──────────抜き打ちテスト。
本来は授業をさぼりすぎていないかを確認するためのテストだが、俺たちは新入生。つまり、このテストで試されるのは今の自分の性能、基本スペックだ。このテストで良い結果を残すとランクがFからEに変わる、という噂もあるので手を抜く奴はいないだろう。
「受ける依頼は討伐で、討伐するのは『キラービー』です。高い攻撃力とスピードを持ち合わせていますが、魔法耐性は低いので今の皆さんの力でも十分に倒せる相手です、頑張ってください。それと、私から一つ皆さんにアドバイスですが、虹には気を付けてください」
そんな先生からの親睦会の詳しい話を聞いて依頼の指定場所である森に来た俺達だが、もうすでにクラスでチームは組んでいるので、一緒にいることはいるが、実質チームごとの討伐になるだろう。そんな親睦会であって親睦会ではない状態ではあるが、チーム内で話していることは大体同じだった。
「昨日の雷すごかったよねー」
「ほんとだよな!どっかの研究所が大爆発起こしたのかと思ったぜ!」
「ミーニャの頭抱えた姿はほんとーに可愛かったんだよー。見れなくて残念だったねー、ハイラ」
「~~~~~っ!ユ、ユリちゃんやめてよっ」
もの凄く心臓に悪い。一応俺がやったとばれてはいないが、もうクラス中に広まっているから、なんか居た堪れなくなる。このまま精神をガリガリと削られていくのは御免なので、とりあえず話を逸らすことにした。
「と、ところで先生が言ってた虹ってなんのことだろうな?」
「あー、あれは多分転移鳥のことだねー」
「転移鳥…って何だ?」
「魔獣だよー。戦闘力は皆無だけど、対象を転移させることが出来るんだってさ。ボクも実物を見たことがあるわけじゃないんだけど、何でも転移するときに七色に光るんだってー」
話しをうまく逸らせることが出来た上に、そんな豆知識を得られて一石二鳥の気分を味わっていると、前にいたチームの一人が、出てきたぞ!、と叫んでいるのが聞こえた。その直後に聞こえてきたのは、ブブブブブ、という耳障りな音。どうやら、キラービーとやらが出てきたみたいだ。
「求めるは小さき火の玉=火球」
キラービーを見てみると、普通の蜂をそのままデカくしたような姿で、正直キモかった。耳障りな羽音もあり、ガリガリと精神を削られている音が自分の胸から聞こえそうだったので、魔法を放つ。俺が魔法を撃ったことでタイミングがとれたのか、次々と詠唱する声が聞こえてきた。
俺の放った魔法はきっちりと敵に当たり、キラービーは一瞬激しく燃え上がると、すぐに火は収まり灰となった。どうやら魔法耐性が低いというのは本当らしい。詠唱を終えて形を具現化した魔法がまるで雨のようにキラービーの群れに突っ込んでいき、あっと言う間に数を減らしていく。数だけはそうとういるので、魔法の制御が得意でない人もとりあえず撃てば当たるくらいだ。
キラービーの数が両手で数えられるくらいになった時、誰かが少し強力な魔法を唱えた。
「求メルハ敵ヲ討ツ槍=水槍」
マナが出力され、魔力を纏い、形が整っていく。そうして現れたのは、十数本の半透明な水の槍だった。幾つか形が崩れていたり振動していて壊れそうなものもあるが、この相手ならば十分だろう。
術者が腕を振ると、水の槍が一斉に残っている敵を殲滅しようとキラービーに襲いかかった。何本かは外していたが、それでも残っていた敵には十分だったようで、見事にキラービーを殲滅して見せた。
その見事な技量に注目する人が多い中、俺は別の方向を向いている。
(………なんだあれ?光ってる?)
見つめているのは、外した水の槍。目標を失った水の槍はただ空中を漂っているだけだ。その槍は激しく揺れていて向こうがよく見えないのだが、それでも水の槍の向こうで何かが光っているのが分かる。
あれは、七色に光っているのではないか。
そう認識した途端、俺の思考は反転した。
次の次くらいで戦闘が入る予定です




