戦闘前は気遣いの味
流石にあの場所で戦うわけにもいかないので移動し、今は近くにあった広場でクロエ会長と対峙していた。辺りを見回してみると、そこには興味本位で付いて来た貴族たちが、俺たちの周りをぐるりと囲っている。
対峙してみて、クロエ会長の威圧感が一層強くなったような気がした。小さくない身長差で気圧されている、ということもあるが、やはり大きな原因は鋭い眼光。肉食獣に目を付けられた気分だ。俺が感じた限りでは、国王となんら遜色ない。
ここまで親に似るって、遺伝子強すぎだろ国王様よ。少しは母親の遺伝子も継がせてやればよかったのに。
だが、俺も負けてはいなかった。こんな冗談を考えられる余裕はあったし、睨まれたからといって萎縮することもなかった。おそらく、王室で感じたあの強烈な視線が良い経験になったのだろう。アレに比べれば、クロエ会長の視線はまだまだ甘い。
「私は『火』、『雷』、『水』の三種類の魔法を扱うことが出来るが、今回使用するのは『水』だけ。この三つの中で私が最も不得意としているのが『水』だ。ハンデとして、文句はないだろう?」
周りからは、おおっ、と言う驚きの声が聞こえてきた。多分クロエ会長が属性を三つ扱えるのに驚いているのだろう。二種類でもかなり名誉なことなのに、それをさらに上を行く三種類。驚くのも無理はない。
俺も驚いてはいたが、俺が驚いたのは別の事で、その理由はあまりにもイメージと扱う魔法がマッチしていたことに対してだ。おそらくクロエ会長が最も得意としている魔法は『火』だろう。髪の毛も色も赤だし。
「ハンデはそれで構いません。が、とりあえずクロエ会長はこれを着てください」
そう言ってから取り出したのは、俺の制服だ。交流会の会場に行く時は制服を着ていたのだが、あの四人との待ち合わせ場所に着くや否や、ユリウスに着替えさせられてしまい、揚句に怒られた。このとき俺はパーティーだとは思っていなかったのだ。なので制服は一緒に持ってきていたカバンの中に入れっぱなしだった。
「…何故それを私に?」
「いや、その格好で戦うのは至難ですよ。それにきっと色々と見えちゃいますし」
クロエ会長の今の恰好は、交流会の時から変わっておらず、ドレスのままだ。露出はユリウスよりは少ないが、ミーシャよりは多いので、その姿のまま走り回るのはきついだろう。戦っている途中に脱げでもしたら大惨事だ。もしかしたら国王に殴り殺されるかもしれない。
「………ク、ククッ、クッハハハハハハハ!いやはや、君はほんっとうに面白いな!一応これもハンデもつもりだったのだが、君がそう言うのなら遠慮なく着させてもらうとしよう。それにしても見えてしまう、か。…ククッ」
「はい、見えてしまいますよ?そういう露出を未然に防ぐのは紳士の嗜みです」
俺がそう言うとクロエ会長はまた、クッハハハハハ!、と大笑いし始めた。何が面白かったのだろうか。
クロウ会長がドレスの下にズボンを履き、上にブレザーを羽織る頃には、クロエ会長の笑いも治まってはいたが、依然として嬉しそうなのには変わりない。
「自分からハンデを蹴るとは、よほど自信があるんだな。ますますお前が気に入ったよ。だからと言って手を抜くつもりはない。そのお前の評価に値する力は出すつもりだ。…お前が生徒会に入るのが嫌ならば私に勝って見せろ、ハイラ・アースタック!」
クロエ会長がそう叫び終わるのと同時に、俺とクロエ会長は地を蹴った。
引っ張ってしまってすいません。次こそ戦闘回です




