会話はとばっちりの味
「お前がハイラ・アースタックだな?」
偶然俺の近くに止まっただけなのかもしれない、という淡い期待を持ったりもしたが、見事に期待は裏切られて、クロエ会長に話しかけられてしまった。
クロエ会長の行動に影響を受けたのは俺だけではない。特に大きな影響を受けてたのはラッツ、ユリウス、ダグラス、ミーシャの四人──────────ではなく、周りの貴族たち。四人は驚いて固まっているだけだが、周りはどよめき、ざわめき、最終的には俺たちの事をコソコソと話し始めた。時折、「何故あんな下級貴族が…」「貧相な顔をしてるくせに…」などという悪態が聞こえてくる。結構な距離があるのに聞こえているので、恐らくわざとだろう。
そんなことはお構いなしに、クロエ会長は更に俺に話しかけてきた。
「父様から話は聞いている。三ヶ月足らずで金貨百枚を奇策で荒稼ぎしたようだな。父様にはその方法を教えていないそうだから、話はそこまで知らんが、私はその方法に非常に興味がある。私にだけこっそり教えてくれないか?もちろん、他言はしないぞ」
一瞬、国王が偵察のために娘を使っていると考えたが、こういう人は嘘を嫌うので、他言しないと言っている以上、それはないだろう。つまりクロエ会長は純粋な興味で俺に話しかけてきたことになる。
このクロエ会長、大変な人気者なのだが、実は友達が少ない。本人が気にしていないのも一つの原因だが、クロエ会長は気になる、興味のある人にしか話しかけないが最も大きな原因だ。声をかけられることは多々あるのだが、自分から話しかけることは、業務連絡などを除くと滅多にしない。話しかけられても内容は気にならない、興味のない事なので自然と会話は続かず、話しかけてきた人は恥をかくことになるのが常なのだそうだ。
これが周りに大きな影響を及ぼした理由だ。ここに集まっているのは、プライドの高い貴族ばかりだ。クロエ会長に話しかけられる、という名誉を得ようと期待してこの交流会に来たのだろうが、来てみれば真っ先に話しかけられたのは下級貴族。それも、最近までは没落しかけていた体たらく。周りからしたら面白くないことだろう。
目立ちたくない俺にとっては厄介なことこの上ない。これで面倒な奴に目を付けられたら、クロエ会長は責任を取ってくれるのだろうか。
クロエ会長の問いかけにも答えず、そんなことを考えていると誰かが横槍と言う名の助け舟を出してくれた。
「お初にお目にかかります、クロエ様。私はつい先日上級貴族に昇格しましたアーマガロイド家の長男、『ロズ・アーマガロイド』と申します。そんな下級貴族などではなく私とお話しませんか?」
話しかけてきた男は、俺でも知っているくらい有名な奴だった。つい最近、他国の侵攻を相手の戦力の十分の一で退けたとして話題になっていたのを覚えている。アーマガロイド家は代々武人で有名な家系だが、このロズ、という男はそういう家系とは無縁に見えた。
短髪にしている綺麗な金髪に合った、甘いマスク。その顔には一切傷なんかは見受けられない。こんな顔で迫られたら、女の子なら断れないだろう。俺も一瞬、こいつになら掘られてもいいと思ってしまったくらいだ。
だがそれでも、クロエ会長のお目にはかからない。
「私はハイラと話しているんだ、邪魔をするな。それに、アーマガロイド家が上流貴族になったのは貴様の親の成果だ。それに比べて、ハイラは自分で成果を上げた。どちらの方が凄いかなど一目瞭然だ。お前が偉そうにできる理由などない。分かったら邪魔をするな」
唖然だ。傍で聞いていただけの俺でさえちょっと迫力に押されてしまった。きっと言われた本人は、もう何も言えないだろう。現に、ロズは苦笑するばかりで、無言だった。
ロズはクロエ会長に一礼すると、何も言えなくなったからなのか、どこかに行ってしまった。立ち去るときに睨まれていたが、見なかったことにしよう。
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