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「秘密の庭」の作業は三か月で終わりました。
「この仕事が終わらなければよいと思っていました」
と王子が言いました。
「終わらなければ困ります。そろそろ夏になります。夏の森は、四季のお祭りのようで、とても忙しいのです。たくさんすることがありますから」
「ここにどんな植物を植えればよいと思いますか」
「来年か再来年まで待ちましょう。ワイルドベリーの下に命が残っていて、芽を出してくるかもしれませんから」
「そうですね」
そう言って、彼は話しはじめました。
「私は若い頃に、理想の女性と出会いました。エボニーという名前で、五つ年上。美しくて、賢くて何でも知って、頼りがいのある人でした。私はそれまで何に対しても自信がなかったのですが、エボニーがいれば寂しくも、怖くもなかったし、エボニーは自分の言うとおりにすれば、全てがうまくいくと言っていましたし、本当にそうでした。エボニーは祭祀の娘で、特別な霊感がありました。私は彼女にすべてをまかせて、安心しきっていました。彼女がいなければ生きてはいけないと思っていたのに、そのエボニーが突然、逝ってしまったのです」
「今でも、エボニーさまを愛していらっしゃるのですよね」
「はい。結婚する時に、約束しましたから。彼女以外を愛することはないと。彼女が私の人生で最高の贈り物でしたから。それから、息を引き取る前に、エボニーは言いました。丘の上に、大きなお墓を作ってほしいと。そしたら、毎日、あなたと国を守ってあげられるからと。それから、私は妻のお墓を作るのに、全身を注ぎました」
「そうでしたか」
私はそう答えながら、私なら、そんなことを頼まないと思いました。
「その後、周囲の勧めで結婚しました。子供はふたり生まれました。ひとりは男子で、ひとりは女子でした。でも、男子の方は誕生日まで生きることができませんでした。もうひとりの女子は元気な子に育ってくれましたが、母親が娘を連れたまま里帰りをして、戻ってはきません。彼女は隣国の王女で、もう私のところには帰らないと言っています。裁判で親権を争っているところですが、私は負けるでしょう。心のない夫で、よい父親でもなかったですから」
王都の噂は流れてきませんので、私はそのことを知りませんでした。というか、聞かないようにしていました。生まれた子供たちは王子のそばで、すくすくと育っているものとばかり思っていましたから。
「そうなのですか。子供を亡くされたなんて、どんなに悲しいことだったでしょう」
「そうですね」
王子がそう答えると、涙が一筋流れ、彼はあわてて後ろを向きました。
「本当に、悲しいことで……、世の中の人は、どのようにして耐えているのだろうと思いました」
「はい。私も、幼い時に、母親が亡くなりました。そのことが、癒える日はないと思います。でも、誰も、そうやって生きているのですよね」
「二年前のある日、大嵐が来て、山上のエボニーの墓が壊れました。王都は水で溢れ、これまでにない災害に襲われました。私は復旧工事を指示しながら、ふと思ったのです。エボニーの魔力は本当だったのだろうかと。私はエボニーに捉えられていたのかもしれない、と思うようになりました。その頃から、世の中のことをもっと知るために、ひとりで出かけるようになりました。そして、あなたのパン屋さんを見つけたのです」
「そうでしたか」
「アイゼリアさん、もしよかったら、森には帰らずに、この宮廷にずっといていただけませんか」
「秘密の花園の、庭師としてですか」
「もしよければ、私の妃になっていただけますか」
「王子さま、私はあなたともう一度、結婚することはできません」
「どういう意味ですか」
「気がつかれませんでしたか。あなたはゼノ王子さま、私はかつて、あなたの第四妃でした。でも、一度もお会いすることもなく、離婚されてしまいましたが」
「そうだったのですか。そのことは今の今まで、全く、知りませんでした。ほんとうです」
「信じます。それで、私に再び第四妃になれというのですか」
「違います。第一も、第二でもなく、正式の王子妃になっていただきたいのです」
「王子さま、十年前にそう言われたら、私はどんなに幸福だったでしょう。でも、それは本当の幸せではないと今はわかっていますから、言われなくてよかったです」
「どういう意味ですか」
「人が人を幸せにはできませんから、自分の幸せは自分で掴まないとなりません」
「ふたりで、掴むというのはだめですか」
「王子さま、あなたはエボニーさまにかわる誰かを探しておられるのですか。また誰かを頼って生きていくつもりですか」
王子は眉をしかめて、しばらく考えていました。
「ゼノ王子さま、すみませんが、私はあなたのために生きるつもりはありません。ひとりで生きていきます。私は森での生活がとても気にいっていますから」
「そうですね。あなたが王宮にはいられて、今以上に満足なさるかというと、そういうことはないですから当然です」
「すみません」
「あなたが謝ることではないです。もともとこの私が悪いのですし、私自身、あなたを惹きつけるようなものも持っていませんから」
「そんなことはないですよ。私は子供の頃、王子さまにずっと憧れていましたから。ただ、私が別のことに意味を見つけたということです。王子殿下の幸せを祈っています。それでは、ごきげんよう」
私はそう言って、ロバに乗って帰りました。
その途中で、空を見上げると、これまでにないほどの爽快な気分でした。ちょっと哀しさは混じっていましたが。
王子の第四王妃として後宮に上がったのに、一度もお目にかかることもなく、待つことだけの日々。寂しく暮らした一年間。心の中に恨みがあったことには気がついていませんでしたが、やはりうっぷんが想像以上に積もっていたのでしょう。
ふんふんふん。
らんらんらん。
私は自分を元気づけるために、大声で、歌を歌いました。
でも、涙が流れました。




