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【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件  作者: 2626


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殺戮者か帝国の剣か

 エルフ族って凄いね!

ドワーフ族って凄いね!

オーガ族は……後から凄くなる!


 たったの1週間で製品化に耐えうる、ハイ・ポーションを生み出しちゃった。

大量に。何箱分も。

俺が『責任を持って全部売る!』と約束したのもあるけれど、早すぎない?


『ガイア』の拠点に来てから2週間が過ぎた早朝、ペトロニウスが青い顔をして俺を叩き起こした。

背後には戦化粧をしたストラトス、震えているネフェリィ、俺を試すように見ているキプリオスのじいさんがいる。

「起きろカイン!大変だ!」

『何の騒ぎだ?』

「何があったの……?」

「帝国軍がヤヌシア州の南の境を越えようとしていると見張りから『共感』があった!」

そりゃ執政官の俺が行方不明になっちゃったからな。

伝達や準備の時間を含めて、そろそろかと思っていたんだ。

「規模は?」

「1万強だと……!最低で1万だぞ!?」

「指揮官は?」

『予想は、出来ているがな』

「冷静に聞くな!あの『殺戮者』マリウスだ!また我らを虐殺しに来たに違いないんだ!」

「じゃあ会いに行こう」

「「「「……は?」」」」

「キプリオスのじいさんとネフェリィは留守番よろしく。俺達が帰るまで、そのままでね。焦らないで欲しい」

「カインの坊ちゃん……何か秘策はあるんじゃろうな?」

「勿論。ペトロニウスさんの『共感』で逐一ネフェリィに伝えるようにするから」


 ヤヌシア州に陸路で来る場合、必ず通る地がある。パウサニアン峡谷だ。

ここは狭くて長い隘路が数キロメートルに渡って続く。

待ち伏せするならうってつけの場所でもあるため、マリウス卿は強行軍をしてまで一気に抜けていると聞いていた。案の定、パウサニアン峡谷の先にある開けたフィロ盆地で軍隊を休憩させていた。

「クソ……カインが魔人族に拉致されて行方不明なのに、どうしてここで休憩なんか……」

イライラしながら一人で木を殴っているレクスの前に、俺はひょっこりと顔を出した。

「やあレクス、元気?」

「っ!!!」

大声を出しそうになったレクスの口をすかさず塞ぐ俺。もう慣れたものである。

「落ち着いて聞いてくれ。このままマリウス卿に会いたい。レクスが捕まえたって不審者って事で俺達を連れてってくれない?」

「拉致された……訳じゃないのか?」

「拉致して貰った、が正しいかな。僕があのまま州庁にいても、時間が浪費されるだけだったから」

「敵は、オリュンポス城か……」

流石レクス、察しが良い。

「他にも色々潰すべき先があって。それについても話さないといけないんだ。軍の中にも内通者が結構いるから……マリウス卿に、直にね」


何でもレクスは、俺が行方不明と聞いてその必要も義務も無いのに従軍してくれたらしい。

我が友よ!と抱きつこうとしたら「臭いな!?」と言われた。俺はちょっとだけ傷ついた。


 レクスに臭いと言われるくらいに、泣く泣く2週間も風呂を我慢していた甲斐があった。俺の黒髪はすっかり薄汚れて土埃にまみれて、とても貴族には見えない。服もエルフ族の服を借りていたので……今の俺の姿は哨戒中のレクスに捕まった盗賊の小僧である。ストラトスやペトロニウスと同じ鎖に繋がれてトボトボと連行される。いやー、デボラやディーンに見られなくて良かった。


レクスが上手いこと言いつくろってくれて、無事に俺達はマリウス卿の目の前に引きずり出された。

「……」

お、刀を佩いて俺達を鋭い眼光で射貫いていたマリウス卿が、俺と目が合って――僅かに動揺した。

「お久しぶりです、カルス大公閣下。『刀』をご愛用下さってありがとうございます」

俺はそう言いながら、闇魔法で俺達の鎖を外した。

「……」

間違いなく『どう言う事か説明しろ!』ですね。

「実は……」


 俺はこれまであった事と起きた事、それから州都だけでなく軍の内部にもかなりの数の内通者がいる事も話した。今までに魔剣の力で何人も人間を二重スパイにしたり、ネズミに追跡させたりした結果、ここまでの際どい現状が判明したのだ。勿論、盗聴盗撮防止の結界を張ってから話している。

「……」

マリウス卿はフラヴィウス皇太子殿下の署名入りの勅書をじっと見つめていたが、頷いて俺に返してくれた。

無言で、意味ありげに俺を見つめる。

えっと……『何が希望だ?』かな。

「オリュンポス城を攻める構えを見せて下さい」

「陽動か?」

レクスが補佐してくれた。

「ええ、禍根を断つために、まずは敵の主戦力と注意をオリュンポス城に集めたいんです」

「その間にカイン達が他の拠点を各個撃破するのか」

そうだよ、我が友!

「でも……魔人族は信頼できるのか?」

レクスが疑念を口にした時、マリウス卿が立ち上がった。

腰に下げている刀をストラトスに突き出す。

「ストラトスと、決闘ですか……?」

頷く。

「勝ったら、僕達の要望を聞いて下さると?」

頷く。

「――っ!」

『帝国の剣』との決闘を申し込まれて、ザアッと顔を青くするストラトスに、俺は言った。

「逆だよストラトス。カルス大公閣下を殺さないで欲しいくらいだ」

「……」

マリウス卿の額に青筋が浮かんだ。

「だが、我らは……!」

怯えて迷うストラトスに俺は断言した。

「いつも通りで良い、それでストラトスが勝つ」

『油断は、この世界で最も恐ろしい罠だからな』


 2人は曇天の下で対峙した。物見に来た兵士達が人垣を作って騒いでいる。

「おい、バカなオーガが最強の男と戦うつもりだぞ!?」

「可哀想だろ……いくら何でも……」

「どうせ『勝ったら恩赦してくれ』とか言ったんだろうなぁ」

「そりゃあまりにも無理ってもんだろ……」

「自殺行為だぜ、『帝国の剣』と剣で戦うなんてよ」


 「ストラトス、最初に言ったよね。この剣術は『殺せなかったら死ぬ』だけだって」

「……死、か」

「そう、名誉ある死だ。犬のように随って媚びた挙げ句の奴隷の死じゃない。気高く戦った果ての名誉ある戦士の死だ。先祖に誇れる。子々孫々は語り継ぐ。ストラトスはオーガ族の名誉を守って戦って死んだと」

「……」

「でも――もしも死にたくなかったら。僕が教えたように『殺される前に殺す』んだ」

ストラトスは目を閉じて、幾度か深呼吸をして――開けた。


審判を務めるレクスが右手を挙げた。

「では――始め!」


「ウキイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

凄まじい声と共に一気に間合いを詰めたストラトスの剛腕が『刀』を振り下ろした。

咄嗟に『刀』で防御して弾こうとしたマリウス卿だったが――そこは流石の反射速度でストラトスの間合いから飛びすさった。が、前髪が数本犠牲になったし、額には薄らと血の筋がにじんだ。

「っ!!!」

無表情か不機嫌な顔しかしないマリウス卿の顔が、驚きに歪む。

「お、おい!?」

「嘘だろ、あのマリウス卿が後ずさったなんて……!!!」

「初めて見たぞ!?」

観客の兵士達がどよめいた。

「えっ!?」

レクスも思わぬ事態に面食らっている。

「……」

青ざめた顔で――再び刀を振り上げるストラトスを見ていたマリウス卿だったが、黙って刀を仕舞うなり、その場に膝を突いた。

この決闘は己が負けた、と認めたのだ。

「……」レクスは何度か目をこすったが、マリウス卿は依然、膝を突いたままだ。「し、勝負、あった……!」


「……」

「……」

兵士達が顔を見合わせて、絶句している。


マリウス卿が防御しなくて良かった。

もし防御していたら、防いだ刀ごと脳天にめり込んで死んでいただろうから。


「何を、やらせた」

天幕の中に戻ったら、珍しくマリウス卿が饒舌になっていた。

「生きるか死ぬかの剣術です」

ついでに、強い戦士を大量生産できる。

「アレを受けていたら、今頃……」

「ご想像通りです」

だからこそこの人は負けを認めてくれたのだ。『オーガの攻撃など今までのように受け止められるから、これも受け止めてすぐさま切り返そう』と言う、武人としての侮りと判断の誤りがあった、と。

そこから生まれた油断は明らかな命取りであり、回避できたのは単なる幸運でしか無かったのだ、と。

「……500振、だったな?」

「はい、全てオーガ族に帯びさせました。エルフ族にはもっと恐ろしい弓を配備させています」

「魔法よりもか」

「射程距離が違います」

魔法(派手な威力を保ったまま)は精々10メートルも飛べば良い方だが、あれはその10倍の距離が有効射程内に収まる。

「……」

マリウス卿は右手を挙げて、静かに首を縦に振ってくれた。それからレクスを呼び、休憩が終わったらオリュンポス城を目指すように指示を出していた。

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