食の情報は基本情報
それと平行して俺は女子供に交じってご飯を作った。クリッピアヌスのおかげで、俺の作る飯のレパートリーはそれなりに豊富なのである。それがキプリオスのじいさんには意外らしかった。
「坊ちゃんのような貴族が飯を作れるんじゃのう」
前世で自炊していたのと、色々な調理の過程を見せてくれたクリッピアヌスのおかげである。
「『カロカロ』って料理店の料理長とそれなりに親しいんだ。美味しいものを楽しく食べるって凄く大事な事だと思うしね」
「これに美味い酒もあれば文句無いんじゃがなあ」
「あはは、そうだね。でもここの料理も美味しそうだね」
今まで見た事も聞いた事も無いような、見た目が大変にワイルドな料理が沢山である。『未発見の新たな料理』となるとクリッピアヌスが食らいついてくるかも知れない。もう少し打ち解ける事が出来たら、いつか味見をしてみたい。俺の勘では、とても美味しそうなのである。
「いやー、口に合うかは分からんぞい」
「美味しいは世界共通だよ」
「「……」」
飲み水に毒でも混ぜるんじゃないか?と思っている疑いの目が俺に向いている。何なら包丁を握ったネフェリィが俺の背後に立っている。
だから俺は俺の分だけさっさと狩ってきたヤヌシアウサギを捌いて、むしってきた香草と借りた塩(岩塩である)を少し振って、内臓の臭みを消し、骨まで砕いて使って……とっても美味しいステーキとスープを作ったのだった。
「……」
ついでに他にもむしってきた香草を幾つかお湯で煮出して作ったハーブティー(のようなもの)を飲む。
うん、美味い。
「坊ちゃん。それ、一杯、良いか?」
「うん、どうぞ」
木の器で一杯ハーブティーを飲み干した後で、キプリオスのじいさんは目を見開いた。
「味が濃くて……美味いのう」
「ここは寒いけれど、その分草木も強いみたいだ。こんなにも味が濃いのは他の土地では採れないってクリッピアヌスも言っていたよ」
『そんな事を確かに言っていたな……』
「何だ、何だ!?」
ストラトスがやって来たので、俺は聞いてみた。
「この辺りの薬草って何処に生えているかな?やっぱりエルフ族の管轄下?」
「うむ、俺も薬草畑の場所は知らされておらん」
「じゃあネフェリィ、案内よろしく」
「わあああっ!?だからどうして体が勝手に……っ!」
ネフェリィが包丁を片手に歩き出したので、俺は付いていった。
じいさんを肩車したストラトスや、血相を変えたペトロニウスも一緒に来てくれるようだ。
森の奥地にある薬草畑にたどり着くと、俺は以前から抱いていた予感が事実だった事を悟った。
「やっぱり、ここは魔晶の一大産地だったか」
目の前に広がるのは巨大な洞窟の中の水晶柱のような魔晶の林の中に点在する薬草畑だった。
「魔晶って……まさか『加護石』の事かい、坊ちゃん?」
「うん、この石を僕達のような人間は魔晶と呼んでいる。しかも……これは凄まじい魔力が既に込められているね」
「この『加護石』は……ワシらに神様の加護を与えて下さる大事な石なんじゃ」
「知っているよ。大神殿の中の神像も……全部これで彫られていたから」
俺は時計塔のお祓い騒動の時を思い出して、頷いた。
それから――薬草の葉を一枚摘むと、さっきの料理の時に切れない包丁で軽く切ってしまった指先に汁を垂らした。
疼痛のような痛みが走ったのは一瞬で、傷痕は綺麗に塞がった。
「やっぱり、そうか。――ねえ、みんな、ちょっとだけ僕の話を聞いてくれるかな」
「ここは確かに貧しい土地だ。だけど『加護石』のおかげで大気や水や土に含まれる魔力の量が他の土地よりも高い。その所為か、ここで育てた薬草は強い魔力を有していて、間違いなく僕達の間では一級品として取り扱われる」
『そうだ、まずは利益で釣れ。その後で心情で絡め取れ』
人間は魔法が使えない平民だろうと必ず魔力を有している。それに作用して病や怪我を治す薬草となると希少価値が跳ね上がるのは間違いない。
各々の魔力の保有量によって多少は効力は左右されるだろうけれど――相当な金になるはずだ。
……テオドラ嬢が一度、収益が上がらないのにどうして州都テーバーイにある『カロカロ』の支店を閉店させないのか、クリッピアヌスに問い詰めた事がある。
「あそこから運ばれる香草は他とは味が違うんです。一口で、体中に活力が漲ると言うか……。あの味を他の所で採れた香草で再現しようと散々試みましたけれど、全く……出来ませんでした」
輸送コストを考えても絶対に駄目だ、あの味は他では代用できない、どうしても閉店だけは勘弁して欲しいと懇願するので、そこまで言うならさぞかし美味いんだろうな?と俺達も味わったのだ。
――口に含んだ瞬間に、ぶわっと鳥肌が立った。これは美味い美味くないの味覚の次元じゃない、体が必要としている味だと。テオドラ嬢も同感だったらしく、それでいったん様子見となったのだ。
今思えば、その理由は――香草にさえ微量の魔力が含まれていたからだろう。
でも、ヤヌシア州をただの高級薬草の産地にするだけじゃ駄目なんだ。
「それだけだと、ここはただの高級薬草の産地になるだけだ。薬草を育てるだけなら他の誰でも出来る、代替が幾らでもきく事なんだ。
だが、もしもこのヤヌシア州で質の良い薬草から作成できる『魔法薬』を継続的に生み出す事が出来たら、その製薬技術と調合法は――君達だけの、誰にも奪えない、絶対的な独占技術と権限になる、とは思わないかい?」
「『魔法薬』……ポーションの事か」
ペトロニウスが呟いた。
「そう。幸いここにはエルフ族もオーガ族もドワーフ族も揃っている。薬草の知識と栽培の方法はエルフに並ぶ者がいないし、ポーションの器の加工技術ならドワーフ族に任せれば安心だし、運搬にかけては力のあるオーガ族なら道中も安全じゃないかな」
なおもペトロニウスは反論してきた。
「だ、だが!……我らが仮にポーションを生み出したとして……それが貴様にとって何の利益になるのだ!ニンゲンは己の利益にならない事は絶対にやらない醜く浅ましい生き物なんだぞ!」
「『ウルトラハッピーエンド』だよ」
「「「「……は?」」」」
「それが僕達にとっての最大の利益で、欲望で、祈りなんだ」




