選択肢をあえて無くす
午後。俺はずらりと刀を腰から下げて勢揃いしているオーガ族に簡単な剣術指導を行った。
固い丸太を無数に並べさせてしっかりと固定させると――凄まじい奇声を上げながら、木刀でひたすらそれを殴りつけるのだ。
「――キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「――キァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
『……喧しいな』
『この叫びで相手を怯ませるのも大事だからな』
お察しの通り、有名な示現流である。
この流派の一番の特長は、技が少ない、事だ。
鞘から抜いて居合いとして切りつける、そして真上から切り下ろす、以外の技が無い。
問:もし相手に躱されたら?
答:一撃で殺せないなら死ね
……良くも悪くも、非常に恐ろしくシンプルな剣術である。シンプル故に覚える事が少ないから上達するのも早い。更に集団戦にも向いている。左右に刀を振り回さないから周りを巻き込まないし、柄に手首や手の筋を添える事で真上に振り上げながらも刀身が前後左右に振られずに走る事も出来る。
とにかく一瞬で間合いを詰めて、振り下ろす。あるいは鞘から抜いた勢いで切りつける。
本当の本当に出来ると教えられる事がそれだけだから、ここで相手がこうしたらこうしなきゃいけないとか、防ぐにはどうしたら良いかとか……そんな迷いは一切無い。
殺せなかったら死ね。
それ故に、『どうしよう、次はどうしよう』なんて迷う事は出来ずに――刀を振り下ろすしか無いのだ。戦うにあたって一番面倒で悪質なのはただただ判断に迷って時間を浪費する事である。
この迷う原因と言う側面も持つ、選択肢の『技』をあえて減らす事、そして訓練をとにかく単純にする事で、簡単に強い戦士が大量生産できるのだ。
この剣術はオーガ族の気質にもとても合っていた。
『戦士である事こそ誇り』
『力こそ正義』
『力で道を切り開く』
こっちも、とってもシンプルだったから。
――ほんの数日で、丸太は見る影も無くズタボロになり、ストラトスに至っては木刀をへし折ってしまった。
その間に俺はキプリオスのじいさんに技術の指導を頼み、ドワーフ族に頼んであの弓の試作品と矢の大量生産を始めている。
このために『刀』を運ばせていた部隊の荷駄には大量の金属資材も金メッキをかぶせて混ぜてあったのだ。
「ネフェリィ、これを使ってあの的を射貫いてくれ」
試作品が出来たので、俺は早速試し打ちしようと思った。
「誰が!」とネフェリィは抵抗したが、体が勝手にコンパウンドボウを手にして矢をつがえて、的を狙い始めたのでついに泣きそうな顔になった。「私の体!一体どうなったんだ!?」
騒ぎを聞きつけてペトロニウスが俺達の後ろから走ってくる。
「貴様!ネフェリィに何を!?」
ネフェリィは叫ぶ、「この距離じゃ絶対に届かない!」
「届くよ?」
矢が放たれた直後――見事に射貫いた木の的がバキッと割れた。
「「っ!?」」
驚く2人に、俺は簡単な説明をする。
「エルフ族が今使っている弓は森林の中で使うための木の弓だ。簡単に作れて小型で取り回しは抜群だけれど、威力が犠牲になっている。でも、この弓は威力に特化した攻撃特化の弓なんだ。僕に従う、従わないは別として、エルフ族にも戦力はあって困る事は無いんじゃないかな?」
「「……」」
キプリオスのじいさんが呟いた。
「カインの坊ちゃん、あの威張りん坊のエルフ族を……着実に利で釣っとるのう」




