初戦、いざ!
オリュンポス城がマリウス卿率いる軍に囲まれ始めた日、俺は夕闇に乗じてオリュンポス城から一番遠い拠点を襲撃した。ヤツらの拠点はオリュンポス城の他に4つあって、これは一番小規模な根城だった。
……話に聞いていた以上に、酷い有様だった。
女子供は奴隷にされて、反吐を吐きそうな酷い虐待をされていた。オーガ族の男は護衛として魔法で生み出された首輪を付けられて、ほぼ番犬扱いを受けていた。
魔幸薬って変な臭いがするんだな。
何処か腐敗臭じみた……気持ち悪い甘ったるさが辺りに立ちこめている。
香水事件の香水があんなにも派手に臭かったのはこの臭いを誤魔化すためか、と俺はようやく納得出来た。
まずは夕闇に乗じてギリギリまで建物に接近し、乾燥したいくつかの草木を混ぜて作った煙玉を矢にくくりつけて打ち込む。解毒剤を服用していないのに吸うと、ジワジワと体が麻痺する恐ろしい煙である。
「何だ!?」
「火事か!」
と人がわらわらと出てきたので、
「――キィエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
俺が先陣を切って突撃する。
「ぎゃああっ!?」
とても懐かしい――血と臓物と骨の、感触と、臭い。
俺達の中にある狂気が涎を垂らして目を覚ます。
『そうだ!これが血だ!!!これが死だ!これが人殺しだ!!!』
「敵襲だ!!!オーガ共を行かせろ!」
俺はそう言った人間を次に切り倒して、一瞬だけ様子を見た。
「行け!早くヤツを殺せ!」
鞭を振るわれながら痩せ細ったオーガ族が柵の中から粗末な木の槍を手に出てくる。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエア!!!キアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
俺は適当に刀を振り回し凄まじい奇声を上げながら、少しずつ建物から離れていく。
ある程度引き離したその瞬間に、闇魔法で俺を囲むオーガ族を束縛した。
「うわあっ!?」
「何だ、これは!?」
「ま、魔法だ!」
俺の奇声が停止したのを合図に――。
「ウキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「キキャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「キイイイイイアアアアアアアアアアアアアエエエエエ!!!」
四方八方から闇に紛れて接近していたオーガ族が建物の中に突入し、それを援護するように火矢が放たれる。建物に火事を起こすのが目的じゃない。今夜は新月なので、暗すぎて獲物を狙いにくいからだ。
「マズい!!!オーガ共、火を消せ!」
嫌でーす。
そもそも、全員動けませーん。
「子供が!」
「娘が中にいるんだ、離してくれっ!!!」
束縛しているオーガ達が悲鳴を上げた。
「全員、助けに来たんだよ」
俺が言う前に豪快に建物の壁を突き破って現れた味方のオーガ達が、奴隷にされていたらしき同胞や子供達を建物の外へポンポンと抱えて放り出す。
「何だ!?この煙は……っ!」
ああ、巣穴を煙でいぶされて、やっと本命が姿を現したか。
俺はオーガ族の束縛を解除して、ゲホゲホと激しく咳き込む元・貴族共の前に立った。
「よう、元皇族、元ヤヌシア州総督、デルフィア侯爵令嬢の元婚約者アルギリス。その他大勢の元貴族共!」
「ゲホッ――き、貴様はッ!?」
「『俺達はカイン・コンスタンティン、貴様等の怨敵だ』」
【魔剣ドゥームブリンガー――展開】
【鎧形態へ変更……装着完了】
「ひっ!バケモノ!バケモノめ」
アルギリス達は光属性の高等技術である『神聖結界』を展開した。
要は、光魔法による強固な防壁で体中を包んだって訳だ。
「『人間でありながら人道を捨てちゃったオマエらがそれを言う?』」
「黙れ!近寄るなバケモノ!私は貴族なのだぞ!」
「『貴族の双肩にかかっている高貴な義務と重大な責務を投げ捨てた挙げ句に土足で踏みやがったオマエらが?貴族だって?笑えないくらいに面白ぇよ、マジで俺達を嗤わせてくれるなァ!!!?』」
俺はおもむろに、一歩一歩、アルギリスにじわりじわりと近付きながら、にんまりと嗤った。
「『なあ……オリンピアを痛めつけた時、楽しかったか?』」
「な、何を……!?あんなバカ女、最後くらい私に良い思いをさせたって良いじゃ――」
「『そうだよ、それだ。――バカ男、最後くらい俺達に良い思いをさせろやァ!』」
『神聖結界』ごと脳天から股間まで真っ二つにされてバラバラに倒れたアルギリスの姿を見て、元・貴族達は悲鳴を上げて我先に逃げだそうとした。
本当は既に手遅れなんだけど――希望を最後まで持たせてから奈落へと突き通した方が、もっと絶望させられるだろう?
【捕食完了】




