戦の基本は、補給と兵站
助けたオーガ族やエルフ族と一緒にガイア村に帰ったら、歓声が湧き上がった。
「生きていたのね、良かった!」
「おかあさん、おかあさあああん!」
……みたいにな。
しかし当然の道理として、ガイア村の人口が増えたために食糧不足の問題が起きるのである。
「正直、越冬のための食料を切り崩してどうにかやっている所だ」
ストラトス、ペトロニウス、キプリオスのじいさん、後はネフェリィと俺は額を付き合わせて悩む事になった。
「このままではもうすぐ来る真冬に……何人も死者が出るぞ」
「そいつは、困るのう……」
「そんな、やっと同胞を解放できたのに――どうすれば良いのだ!?」
「おかしいなあ……」
「カインの坊ちゃん、『おかしい』とは何じゃ!まさかこうなる事を予想もしなかったとでも言うつもりか!」
じいさんに怒られて、俺は慌てて訂正する。
「違う違う、そうじゃなくて。『翔鳥』を飛ばしたから、そろそろだと思うんだけど……」
「誰に飛ばしたんじゃ?」
「ヴェネット商会の総領娘のテオドラ嬢の所だよ。『最高品質のハイ・ポーション買わない?こっちは食料と武器防具その他諸々が大量に必要』……って送ったんだけれどなあ」
「坊ちゃん、あのヴェネット商会に伝手があったのか!?」
「まあ、これは諸刃のやり方でもある。何せテオドラ嬢は見た目は可愛いけど恐ろしく辣腕だからさ……」
意外にもペトロニウスとストラトスが食らいついてきた。
「今はそれで構わんぞ!そのテオドラ嬢とやらと話がしたい!」
「カイン、一つ確認したいが……君は取引場所をもう決めたのか?」
まだだよ、と俺は首を左右に振った。
「取引を受けてくれると言う返事が来ない限りは、焦ってもね……」
その時だった。
俺目がけて、青い小鳥が羽ばたいてきたのは。
「あっ、アレだよ!」
俺は手を伸ばして小鳥を指に乗せた。
青って事は、水属性。ヴァロだな。
俺が魔力波を流すと、小鳥は嘴を開けた。
『翔鳥』はお互いの魔力波が封蝋の代わりなのだ。
『既にフェブーラ州のビザントゥムまで来ているのである。だが、この先が問題である。パウサニアン峡谷を通ればまず敵にも感知されるであろう。盗賊に襲われても大問題である。現地に住む者しか知らない抜け道は無いのであるか?返信を頼むのである』
「……だって。誰か……道を知らない?」
誰もが難しい顔をして黙り込んだが、キプリオスのじいさんがすぐに口を開いた。
「ストラトス、ペトロニウス。ワシが言って……構わんな?」
「うむ」
「致し方……ありません」
キプリオスのじいさんは地面に簡単なヤヌシア州の地図を木の枝で書いた。
「ご覧の通り、ヤヌシア州の南は山と、湖と、湿地帯に囲まれていて……まともに陸路で来るとなると、パウサニアン峡谷を通るしか道が無いのじゃよ」
「まともじゃない陸路の道があるの?」
「今年はどうも寒い。あそこは南にあるがどうしてかここより遙かに寒い所なのじゃ。もうすぐ生まれるじゃろうよ」
「生まれるって……まさか!」
うむ、とじいさんは頷いて、湖を木の枝で指し示した。
「運が良ければ、凍るんじゃよ、一夜にして。ワシらがヤヌシア州から逃げた時の……非常用の道じゃった」
「荷物をたっぷりと積んだ荷駄部隊が通って、氷が割れたりしないの?」
「まあ、気温によるんじゃが……この寒さなら恐らくは、な」
まさか、宿敵の寒さが俺達に味方するとは思わなかった。
「フェブーラ州の湖畔には小さな街があったぞい。そこで向こうには待機して貰うんじゃ。そして――」
街で取引を終えた後は、湖を荷物ごと通って帰る。
「この道を敵は知っているだろうか?」
「ヤツらは夏に、湖に死体を投げ込みに来る事はあったが……秋冬は近寄ろうともしなかった」
ペトロニウスが忌々しそうに頭を振り、ストラトスも同調した。
「うむ。湖の畔で……あの時にヤツらが何をしていたか、思い出すだけで忌々しいぞ!」
よし。
俺は聞いてみた。
「えっと……念のために聞くけれど、氷の上を歩く靴みたいなものって持っている?それと、現地を視察に行っても良い?」




