第十三話 クラスメイトと放課後の事情聴取
「そういえば、さゆり。お昼戻ってくるの遅かったけど、何かあったのか?」
午後の授業がすべて終わり、のんびりと帰る準備をしていると、隣の席の友人からそんなことを聞かれた。
「え? ちは先輩と天音先輩とで、ご飯食べてただけだよ?」
私が当たり前のように答えると、教室の空気が一瞬だけピキリと固まったような気がした。
本当に、お昼を一緒に過ごしただけなのだ。
まあ、食後のデザートを食べようとしたら、天音先輩がやたらとスプーンで生クリームを食べさせようとしてくるから、少し時間がかかっただけで。
ちは先輩が、見かねて途中で止めてくれなかったら、午後の予鈴に間に合わなかったかもしれない。
パフェなんて、最後は味わう暇もなく流し込んじゃったし。
……贅沢を言えば、ちゃんと味わいたかったなぁ。
そんな私の呑気な内心を知ってか知らずか、志保ちゃんが身を乗り出してきた。
「ねぇ、さゆさゆ。天音先輩って、あの生徒会副会長の東雲先輩だよね?」
そういえば、そんなことも言っていた気がする。ちは先輩は「ただの友達」ってぶっきらぼうに言っていたけれど。
「そうだね。生徒会副会長って言ってたし」
「え。じゃあ……食堂で、あの孤高の副会長が嬉々として餌付けしてたっていう一年生って、さゆちゃんだったんだ」
なんですかー、その不穏な噂は。
「餌付け? 私は、副会長ともう一人の美人の先輩が、一年生を取り合って修羅場になってたって聞いたよ?」
……私はそんな恐ろしい修羅場、知りませんよ?
「普通にご飯食べてただけだよ? あとデザートも。天音先輩の奢りで」
「「……」」
目の前の二人が同時に押し黙り、じっと私を見つめてくる。
「あはは。さゆさゆが一番の悪女だね」
なんでさ。
そして二人とも、黙るんじゃないよ。沈黙が重いって。
「でも、いきなり出会ったばかりの先輩に奢らせるなんて、流石すぎるわ」
「仕方ないじゃん。お財布忘れたんだから」
こればかりは本当に仕方がなかったのだ。お昼を抜いたら、午後の授業中に倒れてしまう。
「あー、それね」
「ねー」
「……いや、さゆり。お前、財布ならさっきからそこにね?」
呆れたような声に指差されたのは、自分の机の引き出しだった。
「そんなまさか……」
恐る恐る机の中を覗き込む。暗がりの奥に押し込まれていたのは、見覚えのある緑色のシルエット。
あー。はい。いました。私のガマちゃんが、優しく微笑んでいる……。
「あはは……」
「つか、なんでそんなわかりやすいカエルの財布を見落とすんだよ」
「鞄に入れてると思って、……つい」
「それにさー、財布がないって気付いた時、私たちに相談じゃなくて萩原先輩(ちは先輩)に即相談しに行くっていうのがさー」
「さゆさゆ。私たち、もっと頼ってほしいよ?」
「……ごめんなさい」
返す言葉もなかった。
困った時のちは先輩。いつの間にか、私の脳内にはそんな思考回路が完全に出来上がってしまっていたらしい。
「よし、じゃあお詫びは今日のカラオケ代でいいよ?」
「ちょ、そんなお小遣いないよー」
「大丈夫。半分で勘弁してあげるから」
なんで、そんな私の懐事情のギリギリを攻めるのさ。
「さゆさゆ。詳しい話は現地で聞こうかー」
「まって、私は無実だー」
「よっし、また歌いまくるぞ」
「あ、スバルちゃんはラブソング以外ね」
「えー」
そんな賑やかな会話をしているうちに、気づけば両側から腕を取られていた。
「ほら、さゆさゆ行くよー」
「連行ー」
「容疑者かくほー」
「ちょ、待って。まだ鞄――」
抗議する間もなく、ずるずると廊下を引っ張られていく。
「私は何もしてないってー!」
「詳しくは署の方で聞こうかー」
「抵抗は無意味だぞー」
「ひどい!」
楽しそうに笑う二人に挟まれながら、私は半ば運ばれるように教室から連れ出された。




