第十一話 距離が近すぎる先輩の居場所
「千早先輩、お昼食べに行きましょう。……あと、できれば奢ってください」
教室を出たばかりのちは先輩に頼み込む。
「食事へ行くのはいいけれど、奢ってだなんて。無駄遣いでもしたの?」
う、鋭い。でも、日焼け止めは無駄じゃないし、今日は違う。
「違いますよー。お財布を部屋に置いてきちゃったみたいなんです」
朝バタバタしたから、入れ忘れただけだもん。
「……もう。しょうがな――」
「なら、私がご馳走してあげようかしら」
ちは先輩の背後から声がした。
「え、えっと……」
「ちょっと、天音」
ちは先輩の背後から私を見る先輩。スラリと背は高く、私とは頭ひとつ分くらい違う。
「いいから。初めまして、私は東雲天音。生徒会副会長よ。
そして、千早の数少ない理解者でもあるわ」
「――ただの友達よ」
淀みなく紡がれる東雲先輩の言葉と、ぶっきらぼうに答えるちは先輩。
なんだか、いつもと違う?
それにしても生徒会? 入ろうと思ったことないや。
「ええと。初めまして、一年の橘花さゆりです。あの、仲良くしていただけたら幸いです。東雲先輩」
変に声が上擦った。敬語?あってるかわかんないや。
「ええ、こちらこそ。それでね、お近づきの印に先輩として、ご馳走するのはいいのだけれど、簡単なお願いを一つ聞いて欲しいの」
あれー。ご馳走してくれるって言ってたのに、交換条件出してきたよ。この人。
抜け目がない。さすがは副会長?
「お願い……ですか?」
「そう、それはね。……私を、『お姉ちゃん』て呼んで欲しいの」
えっと、溜めた割には、普通というか。それだけ?
「お姉ちゃん?」
「天音、あなたね……」
ちは先輩も、流石に予想外だったみたい。
「天音お姉ちゃん。って、そう呼んでくれれば、食堂で1番高いメニューを選んでくれて構わないわ」
おー、1番高いメニューがいくらか知らないけど、呼ぶだけでそれだけならいいかも。
「さゆ、言う必要ないからね。そんなことしなくても、私がお昼くらいなら出してあげ――」
「天音……お姉ちゃん?」
首を傾げながら、東雲先輩を見上げる。
その瞬間、東雲先輩の肩がぴくりと震えた。
「……っ、これは危ないわね」
額を押さえながら、そんなことを呟いていた。
えーと。危ないって、なにが?
なぜかふらつく東雲先輩を先頭に、食堂へ向かう途中で、東雲先輩がお昼だけじゃなく、「デザートも好きなの頼んでいいわよ」と言ってくれた。
頼んでいいなら頼んじゃうよ?
にしても、デザートも好きなものでいいなんて、プリンアラモードとスペシャルパフェどっちにしようかな。
……2個頼んだら怒られるかな?
そんなことを考えながら、私は二人の後ろをついて歩いた。
もう、嫌な予感しかしなかった。
さゆりが、天音をお姉ちゃん呼びした。
……疑問系だったけど。
でも、その瞬間、天音の肩がぴくりと震えていた。
「――はう。……これは、くるわね」
廊下を歩きながら、天音はふらりと額を押さえ、後ろのさゆりを気にしながら、そんなことを小声で言う。
「ちょっと、天音」
「姉さんたちが、やたらと呼ばせたがる理由がわかった気がするわ」
蕩けたような表情で、天音は深く頷いてた。
そして私を見て、天音は楽しそうに笑う。
ゆっくりと近づき、すっと、口元を耳元へ寄せてくる。
「ねえ、千早。……この子おいくら?」
小声とは言えない声量で、そんなことを囁かれた。
「いくら積まれても、あげないわよ!」
「レンタルでもいいから!」
レンタルってなによ。
だいたい私だって、『ちは先輩』としか呼んでもらえてないのに。
……あのとき以外。
「絶対イヤ」
紹介なんてさせなければ良かった。
食堂で、各自注文したメニューを受け取り席へ着く。
「さゆりちゃん。本当にそれで良かったの?もっと高いメニューもあったのに」
天音がさゆりにそんなことを聞くのも、わからなくはない。私が始めて奢ってあげたときも同じメニューだった。
「さゆりのお気に入りなのよ。可愛いでしょう?」
チーズトッピングのオムライス。
さゆりの大好物。
もう目がキラキラしてて、すごく可愛い。
「そうなのね。ふふ、高いものより好物か」
「さて、いただきましょうか。さゆ、ちゃんとお礼を言うのよ」
「はい。天音お姉ちゃん、ありがとうございます。いただきます」
そんなさゆりの声に、天音はまた悶えていた。
面白いけど、なんだか複雑ない気持ちになる。でも、そんな気持ちすら、さゆりが吹き飛ばしてしまった。
「あ、天音お姉ちゃん。デザートはスペシャルパフェとプリンアラモードどっちも食べるので、注文お願いします」




