↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/13

第十話 距離が近すぎる先輩の変化


「さゆ、……おきて」


 声が聞こえた。

 

「……あとちょっと」


 微睡みの中、無意識に返答する。


「ちょっとじゃないでしょ。起きなさい。――遅刻しちゃうわよ」


 肩をゆすられ、はっきり聞こえた。


 ……遅刻?

 ――あ。


 慌てて身体を起こす。


「わぷ」


 顔に布の固い感触と、弾力。

 目を開けると、白……いや少しだけピンク?


「……っ!いきなり起きないでよ」


 頭の上から声がする。

 

「すみません」

「――んっ。ちょっと、そのまま喋らないでよ」


 もごもごと口を動かしたら怒られた。


 顔を離して改めて見ると、夏用の制服を着込んだ、ちは先輩がそこにいた。


「なんで夏服なんですか?」

「……はぁ。5月からの移行期間に入ったからよ。連絡があったでしょう?」


 移行期間?

 あー、先生がそんなこと言ってた気がする。

 ……出してないや。


「そんなことはいいから支度して、遅れちゃうでしょ」


 時刻は6時12分。え、早っ。


 これだから外面お化けは……。

 

「髪、爆発してるわよ」


 それを早く言って!

 

 慌てて洗面室へ向かい、ついでにシャワーを浴びて、部屋に戻ろうとしたらまた怒られた。


「服を着なさい!」


 いいじゃん、減るもんじゃないし。




「……なんてことがあったのよ」

「ふふ。千早がそんな愚痴を溢すなんて、珍しいじゃない」


 さゆりと別れて、自分の教室で読書をしていると、天音が来たので、つい愚痴ってしまった。


「ルームメイト、さゆりちゃんだっけ、そんなに可愛いの?」

「可愛いのは間違いな――。んん。ごめんなさい、今のは忘れて」


 いけないいけない。しゃべりすぎちゃダメ。

 この東雲天音は、友人だけど、厄介な人だから。


「いいじゃない。可愛い妹みたいなものなんでしょう?

 ――もう味見はした?」


 ほらきた。

 からかっているのはわかっているけれど、せめて小声で言って欲しい。


「しないわよ、そんなこと」


 少し顔が熱い。

 今日の、暑さのせいだと思いたい。

 

「そうなの? 4月までの優等生キャラとは、だいぶ表情が違うから、てっきり。……え、もしかして食べられた?」

「……バカなこと言わないでよ」


 相変わらずよく見ている。いらないところまで。

 それに、まだそこまで進んでない。


「……そんなに違う?」

「ええ。今の方がずっと魅力的で、可愛いわよ」

 

 そんなことは聞いてないのだけど。


 第一に、“魅力的”という意味なら、天音も十分おかしい。いいところのお嬢様で、生徒会副会長。

 勉強は私と同じくらいだけれど、天音はスポーツも得意で、ついたあだ名は、「艶姫」。


 理由は知らない。知りたくない。

 十中八九、男子がつけただろうし。

 

 ちなみに会長に立候補しなかったのは、その方が面白そう――らしい。


「いつもはそんなことを言わないくせに。なにを企んでいるの?」


 ニコニコとした表情がいかにも怪しい。

 天音にさゆりを合わせたら、お持ち帰りされかねない。

 

「ふふ。あなたにそんな顔させるのよ。今度紹介し――」

「嫌よ」


 言葉を遮って否定する。

 できることなら、あの子に。さゆりには近づかないで欲しいから。

 

 絶対に、渡さない。


「……千早がいじわるだわ」

「そうよ。知らなかった?」

 

 しかし、そんな私の思いを知らない、呑気なさゆりが、私を訪ねてきてしまったから、紹介せざるをえなくなってしまった。


 


「千早さん。可愛い後輩さんが迎えにきているわよ」


 お昼休みに、クラスメイトから声がかかった。


「ありがとう瑞希さん。どなたかしら」


 教室の入り口には、愛らしい笑顔を浮かべたさゆりが大きく手を振っていた。


 ……ふふ。可愛い。


「……千早さんって、そんな顔なさるんですね」

「え?」

「すごく優しい顔をされてましたよ。いつもはもっとクールですから、印象がだいぶ変わりました」

「……あ、ええと、ありがとう?」

「どういたしまして。そして、ご馳走様です」


 ご馳走様?

 え、ちょっと。

 

 スタスタと止める間もなく、離れていく瑞希さんの背中を見送る。


「へー。あの子ね、千早を変えたいい人は」

「そんなおじさんみたいな言い方は、どうかと思いますよ。天音さん」

「ここまで来たなら紹介してよね」


 すごく嫌だ。嫌な予感しかない。

 でも、ここで断るのは……無理よね。

 

 そんな予感を抱えたまま、天音を連れて、さゆりの元へ向かう。


「お願いだから、さゆに変なこと言わないでよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。