唖然とする強さと怪しい影
え? 強すぎない?
物語やゲームで力の象徴ともいえる竜が、目の前であっさり圧倒されるのを見て、俺は愕然としていた。
この世界の中心が、剣でも魔法でも竜でもなく、あそびの力なのだと見せつけられた気がした。
……よく生きてたな、俺。
最初のハプニングの時、首がネジ曲がっていてもおかしくなかったのでは?
そんなことを考えていると、緋毬が窓から戻ってきた。
あ、玄関から帰ってこないんだ。
ちなみに軍曹は、被害がないか確認するために外へ出ていってしまっている。
「あ、おかえり」
「え? あ、た、ただいま」
緋毬が少しキョドった様子で返事をする。
変身を解いた彼女は、いつものふわふわした姿に戻っていた。さっきまで空で竜を圧倒していた存在と同一人物とは思えない。
けれど、彼女はどこか気まずそうに視線を泳がせていた。
「こ、恐がらせたかしら?」
「ん?」
俺は首を傾げる。
「こんな力だし……」
「ああ……」
俺が答えようとした瞬間、緋毬の肩がぴくりと震えた。
怯えている。
いや、俺に怯えているわけじゃない。
俺の答えに怯えているのだ。
「いや、別に? すげぇなとは思ったけど」
「え?」
緋毬が、すっとんきょうな顔をした。
「ほ、本当に?」
嬉しそうな、それでいて半信半疑な顔。
あれ?
もしかして、怖がられると思っていたのか?
けれど、それは本心からの答えだった。
力そのものが怖いわけじゃない。
怖いのは、それを向けてくる相手だ。
だから――
「少なくとも、俺は緋毬が使うなら怖くない」
そう言うと、緋毬は一瞬だけ固まった。
それから、赤い瞳を少しだけ伏せる。
「……そう」
小さな声だった。
けれど、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。
「あなた、変な人ね」
「異世界まできて、最初にだるまにビンタされた男だからな。今さら普通とは思ってない」
「ふふっ」
緋毬が、今度はちゃんと笑った。
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律と緋毬の様子を、木の上から観察する影が一つ。
「なるほど、ね。本当に触れるんだ」
その隣では、鳥たちが何事もないように枝を跳ねていた。
一羽の小鳥が影の肩に止まりかける。
だが、その足は何もない空間をすり抜けたように宙を掻き、慌てて羽ばたいた。
鳥は不思議そうに首を傾げる。
けれど、すぐに何事もなかったかのように、またチュンチュンとさえずり始めた。
影はニヤリと笑う。
そして、忽然とその場から姿を消した。
まるで、何かに隠されたかのように。




