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4-22

 アルセイオンの空を覆っていた低い雲から、静かな雨が降り注いでいた。

 先代の王を、そして偉大な「盾」の喪失を悼む国葬の儀。大聖堂を埋め尽くした参列者たちが身に纏うのは、この国の古き伝統に則った、汚れなき「白い喪服」であった。うねるような白の波の中、ただ一人、祭壇の前で背筋を伸ばし、弔辞を読み上げるエリオスの姿があった。


 その声には、震えも、迷いもなかった。

 夜ごとに彼を苛んでいたはずの怯えなど微塵も感じさせず、新王は完璧なまでの毅然さと、一分の隙もない立ち居振る舞いで、張り詰めた儀式を統べ切ってみせた。

 列席した諸侯や外国の使節団が、その若き統治者の底知れぬ器量に息を呑むのが、張り詰めた空気を通じて伝わってくる。


(大したもんだ。……あいつはもう、立派にこの国を背負っている)


 数歩下がった影からその背中を見つめながら、レオンハントは胸の内で深く感心し、同時に心地よい安堵を覚えていた。あの夜、中庭で弦を緩めてやった弟は、今や誰よりも強靭な、国を支える大黒柱となっていた。


 巨星の死を悼む儀式が終わり、白い喪章が外されると、王城は息つく暇もなく、怒濤のような「赤」の祝祭へと塗り替えられていった。婚礼の情熱と躍動を示す真紅の幕が、石造りの回廊を色鮮やかに飾っていく。



 国葬から一か月後、まずはレオンハントとアレッシアの結婚式が執り行われた。

 ヴァレンツァ共和国の全権大使や豪商たちが詰めかけ、山のような祝い品と、未来の航海を約束する最新の海図が新婚の二人に贈られた。真紅のドレスに身を包んだアレッシアは、相変わらず「猛獣使いの腕の見せ所ですわ」と悪戯っぽく微笑み、レオンハントの手を強く握りしめて、参列者たちの喝采を浴びていた。


 そしてその二週間後、今度はエリオスの結婚式が、さらに盛大に催された。

 新王の隣に立つこととなった新たな王妃マルグリット。

 国内の有力貴族の令嬢であり、淑やかさの内に、新王の過酷な知性に寄り添うだけの深い聡明さを秘めた女性であった。エリオスは彼女の細い指に指輪をはめ、国民に向けて静かに手を振った。その光景は、アルセイオンが内乱の傷を完全に克服し、新たな安定期へと突入したことを内外に示す、完璧な政治的証明でもあった。


 国葬から二つの婚礼へ。

 激動の二か月間は、統治院の懸念を余所に、大きなトラブルを一つも起こすことなく、滑らかに、そして完璧に全行事を終了した。ハワードの緻密な予算管理と、ロドリックの外交的根回し、そして何より、新王エリオスの冷徹なまでの差配が、この巨大な歯車を回し切ったのだ。



 全ての騒がしさが去った夜。

 レオンハントは、一人、王城の最も高い見張り台に立ち、夜風に吹かれていた。


 見上げる夜空には、満天の星々が、まるでこれから挑む未知の航路を示すかのように、冷たく、しかし激しくまたたいている。

 すぐ傍の港では、アルフォンソが調整を続けた最新鋭の探検船が、静かに波に揺られながら、主の乗船を待っていた。


 城を守る、完璧な知性を持つ弟。

 己を待つ、まだ見ぬ無限の世界。


「俺は俺の理想を目指して、世界を広げていこう」


 レオンハントは胸に手を当て、迫る船出の日を想い、星空の向こうにある水平線を見つめ続けた。



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