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東の空から差し込んできた朝の光は、まるで昨日までの暗澹とした停滞を嘘のように洗い流していく清々しさだった。
エリオスと中庭で別れ、自室へと戻る道すがら、レオンハントは久方ぶりに自分の歩幅が軽くなっていることに気づいた。心臓の奥が、これから始まる未知の航海に向けて、トクトクと心地よい高鳴りを上げている。
何より、別れ際のエリオスの目が忘れられなかった。
不安に怯え、夜も眠れずにいたはずの弟の瞳には、かつての冷徹で、それゆえに誰よりも頼もしい「計算機」としての光が完全に戻っていた。それどころか、兄が提示した広大な世界地図を前にして、彼の知性はより貪欲な方向へと駆動を始めたようだった。
「兄上が外へ出るというのなら、私も手ぶらで待っているわけにはいきません」
エリオスは、朝露に濡れた薔薇の生垣を背にして、そう静かに宣言したのだった。
「正確な情報を、より多く、より広く、誰よりも早く収集するための組織を作ります。国内の反乱分子を監視するだけでなく、諸外国の宮廷の動向、経済の微細な変化、そして兄上が向かう海の先の情勢までを網羅する、私直属の諜報部隊を。情報の遅れは、国家の死を意味しますから」
その言葉を思い出し、レオンハントは苦笑を漏らす。
全く、あいつの頭脳は逆境にあってこそ、より鋭く研ぎ澄まされるらしい。世界が広いと知るや否や、それをすべて情報という名の網ですくい取ろうと思いつくあたり、やはりあいつは天性の統治者なのだ。弟が前向きになってくれたのなら、もうこの城の「内側」について心配することは何もない。
問題は、統治院などの老人たちをどう納得させるかだったが、それも杞憂に終わった。
昼過ぎに開かれた審議の席で、強力な味方が現れたのである。外交官ロドリックだった。
「レオンハント殿下の外海派遣、私は大賛成ですな」
ロドリックは、いつものように狐のような薄笑いを浮かべながら、しかしその言葉には確かな重みを乗せて言った。
「我がアルセイオンの外交は、これまであまりに内向き、かつ受動的でありすぎた。王族のレオンハント殿下が自ら海を渡り、未知の国々と誼を結ぶ。これほど強力な外交カードはございません。老骨ながら、このロドリック、殿下の航海に必要な外交特使としての信任状と、各国の港での交渉術については、責任を持って御用意いたしましょう」
この老練な外交官の後押しにより、空気は一変した。内政官ハワードは費用の面で眉をひそめ、監察官ブラックウッドは前例がないと難色を示したが、カイル将軍が「軍としても、外海の防衛・航路開拓のデータは喉から手が出るほど欲しい」と断言したことで、ついにレオンハントの「外征特使」としての役割は公式に認められることとなった。
こうして、国全体の歯車が、一気に凄まじい速度で回り始めた。
まずは、先代の王——二人の父の、国家としての正式な葬儀。悲しみに暮れる民衆を慰め、新たな時代の幕開けを告げるための、厳かで盛大な国葬の準備が、ハワードの手によって進められている。
そしてその後に控えているのが、二人の王子の結婚式であった。
エリオスは新王としての正統性をより強固なものにするため、そしてレオンハントは、遠い外海へと旅立つ前に、残していく最愛の婚約者と生涯の誓いを交わし、その地位を保証しておくために。
宮廷の回廊を歩けば、白い喪服の仕立て屋と、婚礼衣装を抱えた女官たちが、忙しなくすれ違っていく。死と生、終わりと始まりが、この古い王城の中で目まぐるしく交差していた。
窓外を見やれば、雲一つない青空がどこまでも広がっている。
レオンハントは、胸いっぱいに初夏の乾いた空気を吸い込んだ。
背負うつもりでいた王冠は弟の手にある。なればこそ、自分はその王冠をより輝かせるための、広大な世界をもぎ取ってこよう。
まだ見ぬ海の向こうから吹いてくる風が、レオンハントの髪を、優しく、そして力強く揺らしていた。




