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一人になりたいと願った代償は、あまりに短く、残酷な形で支払われた。
自分の足音だけが響く静かな回廊で、王座から拒絶された痛みと、そこから逃げ出せた安堵の混ざり合った泥のような感情を噛み締めていた時間は、わずか数分に過ぎなかった。
背後から駆け寄る騎士の靴音と、その切迫した「危篤」の報せが、レオンハントの胸に空いた穴を、容赦ない義務感で埋め立てていく。
(落ち込む暇さえ与えられないのか)
父が死ぬ。あるいは、王が死ぬ。
その巨大な事実の前に、次代に選ばれなかった男の感傷など、道端に落ちた枯葉ほどの重みもなかった。レオンハントは自らの頬を一度強く叩き、澱んだ空気を吐き出すと、もはや王族としての仮面を貼り付けて、父の寝所へと走り出した。
その後の数日は、色彩を欠いた記憶の断片としてレオンハントを通り過ぎていった。
父王の最期は、血と、そして言葉にならない微かな溜息に彩られていた。
アルセイオンを鉄の意志で守り抜いた巨星が墜ちる音は、案外、静かなものだった。
葬儀の日は、空が低く垂れ込めていた。
大聖堂を埋め尽くす黒い礼服の波と、揺れる無数のロウソクの火。レオンハントは所定の位置に立ち、彫像のように動かず、正面に置かれた重厚な棺を見つめていた。
隣に立つエリオスの横顔は、もはや兄と語り合った時の柔らかさを完全に失い、白磁のような硬質な輝きを放っている。彼はもう、一人の少年ではなく、王国という巨大な建物を支えるための、新しい「礎石」になりつつあった。
葬儀が終わり、喪が明ける間もなく、事態は急流のようにエリオスを頂点へと押し上げていく。
王宮のバルコニー。雲の切れ間から差し込む光の下で、統治院長エドマンドが新王の選定を宣言した。
「アルセイオンの民よ。大いなる盾は、今、エリオス新王へと引き継がれた」
広場を埋め尽くした民衆から、地鳴りのような歓声が上がる。
「祝福の王」「女神の愛し子」――。
人々が熱狂を持ってその名を呼ぶとき、レオンハントはバルコニーの数歩下がった影の中に立っていた。
陽の光を浴び、黄金の髪を輝かせて国民に応える弟の背中は、ひどく小さく、そして誰の手も届かないほど遠くに見えた。
民衆の歓声を聞きながら、レオンハントは自らの内側に問いかける。
自分は、これからどうするべきなのか。
エリオスの盾となり、この城で彼を支えるのか。それとも、閑職に就くのが国の未来にとって良いのか。
統治院が下した「選ばれなかった」という事実は、彼に自由を与えたはずなのに、その自由が今のレオンハントには、重い鎖よりもずっと扱いにくいものに感じられた。
目的を失った剛勇は、行き場のない熱量となって、彼の身体の奥で燻っている。
告知の儀式が終わり、熱狂の余韻だけが漂う静かな回廊へ戻ったとき、レオンハントは足が止まった。
夕闇が忍び寄る窓の外を見つめ、自分の立ち位置を見失ったまま立ち尽くす彼の背中に、聞き慣れた控えめな足音が近づいてくる。
「レオンハント殿下」
振り返ると、そこには亡き父の、そして今はエリオスの侍従となったはずのベレンドールが立っていた。
その手には、父が死の直前に遺したという、血に汚れたままの一巻の地図が握られている。
老侍従の瞳には、哀悼とは異なる、何か冷徹で、かつ燃えるような光が宿っていた。
「陛下が最後に、貴方へと託されたものがございます」
ベレンドールが差し出したその地図が、レオンハントの静止した時間を、再び残酷なまでに動かそうとしていた。




