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4-11

 カイルは、深夜の執務室で一人、使い古された地図の上に指を走らせていた。

 一週間後には、アルセイオンの未来を左右する「審判」が下る。

 統治院会議で口にした通り、カイルにとって二人の王子はどちらも、自らの命を預けるに足る主君であった。

 剛毅にして情に厚いレオンハントか、峻烈な理と祝福を宿したエリオスか。


「……どちらが選ばれても、国は形を成すだろう」


 カイルは呟き、酒杯に手を伸ばした。

 だが、軍政官という職にある以上、会議の場では「どちらでもよい」という放り投げた態度は許されない。

 これまでの自分以外の統治院メンバーの意見を聞くに2対2で均衡している。

 軍の総意として、どちらがこの疲弊した王国を立て直すに相応しいか、5人目の自分が結論を出さねばならなかった。


 そこへ、夜回りを終えた数人の隊長たちが、報告のために顔を出した。

 カイルは彼らを呼び止め、あえてざっくばらんな口調で問いかけた。


「貴公らから見て、次の王はどちらが相応しいと思う。私情は抜きだ。軍を維持するという一点において答えろ」


 隊長たちは顔を見合わせ、やがて一人が慎重に言葉を選んで答えた。


「陛下のような『強さ』を最も受け継いでおられるのは、やはり長兄であられるレオンハント殿下かと。ゆくゆくは現王の威厳を身につけられるように思います」

「ふむ」


 別の隊長が続く。


「レオンハント殿下は我々の話を聞いてくれそうですし、兵たちの士気も高まるでしょう。ですが、将軍。今のアルセイオンに必要なのは、士気よりも『余力』ではございませんか」


 カイルは眉を動かした。

「余力、だと」


「左様にございます。先の戦で、地方の徴兵に対する忌避感はかつてないほど高まっている。

 ですが、エリオス殿下の『女神の祝福』を尊ぶ聖教徒たちは、あの方のためなら進んで武器をとると言う者もおります。

 聖教の権威を背景にした徴兵と、民衆の自発的な協力……。

 これがあれば、無理な法執行による反発を招かずに、軍を再建できる」


 別の隊長も頷きながら言葉を添えた。

「近年はありませんが、外海から侵攻される可能性も考えないといけませんしね」


 カイルは、杯の中の酒を見つめたまま沈黙した。

 レオンハントの持つ人望は、確かに「個」としての魅力であり、最強の将を形作る。

 だが、エリオスの持つ「女神の祝福」という名の機能は、徴兵の円滑化や聖教徒の組織的な協力という、極めて実利的な軍事資産に変換できるのだ。


(この国のため、軍政官として内乱や他国からの侵略に備えるのが安寧の礎か)


 カイルの中で、一つの答えが形を成していった。

 エリオスを王座に据え、その聖性と知略で国家の基盤を安定させる。

 それこそが、アルセイオンの「不落の盾」を再構築する、最も合理的な布陣である。


「……分かった。貴公らの意見、参考になった」

 カイルは立ち上がり、窓の外で眠る王都を眺めた。


 一週間後、私はエリオス殿下を推そう。

 それはレオンハント殿下への不信ではなく、あの方を王宮という名の戦場から解き放ち、荒野を駆ける「真の英雄」として活かすための、軍政官としての決断であった。



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