第10章7節: 思考の壁と限界
小鳥の手当ての後、気分は少しだけ晴れたものの、研究の行き詰まり感が解消されたわけではなかった。古代文字の解読は難航し、魔法の法則性も未だ掴みきれず、マナの正体は依然として謎のままだ。「食の災厄」仮説も、状況証拠は集まりつつあるものの、決定打に欠ける。
前世であれば、ここからが本番だ。
高性能なシミュレーション、精密な実験装置、そして何より、同僚や弟子たちとのブレインストーミング。異なる視点や専門知識がぶつかり合うことで、新たな突破口が開けることは少なくない。
だが、ここでは私一人だ。
相談できる相手も、議論を交わせる対等な知識を持つ者もいない。ボルガンやリリアは協力的だが、彼らに私の研究内容の複雑さを理解してもらうのは不可能に近い。
「……思考が行き詰まっているな」
私は書物を置き、立ち上がって小屋の中を歩き回った。壁に貼った仮説のメモ、採取した標本、試作した器具。これらを見つめても、新たなアイデアは浮かんでこない。まるで、分厚い霧の中を歩いているような感覚だ。進むべき方向は朧げに見えているのに、足元がおぼつかない。
これが、独りで行う研究の限界か。
あるいは、私自身の能力の限界か。
どちらにせよ、このままでは堂々巡りになるだけだ。何か、別の視点、別のアプローチが必要なのかもしれない。
しかし、それが何なのか、今の私には見当もつかなかった。焦燥感にも似た感情が、冷静さを保とうとする私の思考を揺さぶる。




