第10章5節: 「食の災厄」仮説の補強
文献調査を進める中で、私は「食の災厄」仮説を補強するかもしれない、いくつかの間接的な記述を見つけ出した。
ある古い年代記には、特定の時代に、広範囲で原因不明の奇病や精神錯乱が流行したという記録があった。その記述は曖昧だが、「豊穣の時代の後、人々が奇妙な病に倒れ、互いを疑い、争うようになった」とある。これが、マナ汚染された食物による影響だとしたら?
別の薬草に関する書物には、「マナ溜まりの近くで採取した薬草は、時に予期せぬ強い効果、あるいは毒性を示すことがあるため、使用には注意が必要」という記述があった。これは、マナが植物の成分に影響を与えることを示唆している。ならば、食用植物にも同様の影響があり得るのではないか?
さらに、アッシュウッド村の古老から聞き取った話の中に、「昔はもっと色々な食べ方があったらしいが、ある時を境に、シンプルな食べ方が一番安全だ、ということになった」という伝承があった。具体的な理由は失われているが、「食べ方を間違えると、恐ろしいことになる」という漠然とした恐怖感が、言い伝えとして残っているようだ。
これらの断片的な情報は、直接的な証拠にはならない。だが、点と点を繋ぎ合わせていくと、「過去に食とマナに関連する大きな災厄があり、その結果、食文化が意図的に単純化・後退させられた」という仮説の蓋然性は、高まっていくように思えた。
問題は、その「災厄」の具体的な内容とメカニズムだ。それを知るには、やはり失われた古代文明の記録や、あるいは災厄を直接知る(あるいは、それに近い情報を伝承する)存在に行き着く必要があるのかもしれない。




