第9章9節: 人間って、いいものだな(わたしは今エルフだけど)
村人たちから様々な家庭料理を振舞われ、彼らの笑顔や、料理への素朴な喜びの声に触れているうちに、先ほどまで私の頭を悩ませていた巨大な問いや、研究の行き詰まり感が、不思議と薄れていくのを感じた。
知的な探求だけが、世界の全てではない。こうして、ささやかな日常の中で、人々が工夫し、分かち合い、笑い合う。その営みの中にも、確かな豊かさと、学ぶべき価値がある。
彼らは決して、私が持つような膨大な知識や、高度な分析能力を持っているわけではない。だが、日々の暮らしの中で、経験から学び、互いに助け合い、ささやかな幸せを見つけて生きている。その姿は、ある意味で、私の求める「合理性」とは違う次元の、「豊かさ」を示しているのかもしれない。
(……人間って、いいものだな)
ふと、そんな感傷的な思いが胸をよぎった。もちろん、私は今はエルフであり、人間ではないのだが。種族の違いを超えた、生命の営みそのものに対する、肯定的な感情とでも言うべきか。
アリアとの交流、そしてこの村での経験が、私の思考に、ほんの少しだけ、有機的な温かみを加えてくれたのかもしれない。それは、純粋な論理だけでは到達できない、新たな視点を与えてくれるような気がした。




