第9章7節: 散歩と村の風景
私は小屋を出て、久しぶりにアッシュウッド村の中を散歩することにした。以前とは異なり、村人たちの私を見る目には、もう警戒心はなく、親しみと尊敬の色が浮かんでいる。
「おや、ハルカ様。お散歩ですかな?」
畑仕事をしていた老人が、にこやかに声をかけてくる。
「ああ、少し気分転換にな」
「それはようござんした。そうだ、うちで採れた芋なんだが、ハルカ様に教わった通りに蒸してみたんです。少し食べてみてくださらんか?」
老人は、ほかほかと湯気の立つ、素朴な蒸し芋を差し出してくれた。見ると、中心部までしっかりと火が通り、甘い香りがする。私が「十分な加熱」を説いたことが、きちんと実践されているようだ。
「……いただこう」
礼を言って受け取り、一口食べる。素朴だが、芋本来の甘みが引き出されていて美味しい。
歩いていると、別の家からも声がかかった。
「ハルカ様! うちのパン、前より柔らかく焼けるようになったんですよ! 食べてみてください!」
「ハルカさん、この前教わったピクルス、うまく漬かったんだ! 味見していって!」
行く先々で、村人たちが自分たちの作った料理を、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに差し出してくる。それは、私が最初に辺境伯の館で見たような、ただ生きるためだけの食事ではなく、作り手の工夫や喜びが込められた、「家庭料理」と呼べるものに近づきつつあった。




