第8章7節: 古文書に記された「食の災厄」?
その古文書の一節は、難解な言い回しと比喩に満ちていたが、注意深く読み解くと、以下のような内容が記されていた。
――『古の時代、人々は大地と星々の恵みを識り、それを火と水と風と土の理を用いて、万象の味を極めんと欲した。その技は神域に達し、人々は食の悦楽に酔い痴れ、天上の美味を地上に再現せんと驕り高ぶった』――
これは、高度な調理技術が存在した古代文明を示唆しているのではないか? 「万象の味を極める」「天上の美味」。明らかに、現代のこの世界の食文化とはかけ離れている。
――『されど、飽くなき探求は、禁断の扉を開けたり。彼らは生命の根源たるマナを食に取り込み、味覚の増幅と変質を試みた。それは、神ならぬ身には過ぎたる業。マナは歪み、暴走し、食を通じて人々の魂を蝕み始めた』――
マナを食に取り込む? 味覚の増幅と変質? これは、魔法を調理に応用し、それが行き過ぎた結果、何らかの災厄を引き起こしたということだろうか? 魔法による味覚操作、あるいは食材のマナ汚染のような事態か?
――『大地は怒り、星々は嘆き、食は祝福から呪いへと転じた。美味は毒となり、悦楽は狂気へと変わる。かくして、食の塔は崩れ落ち、その技と記憶は、戒めと共に忘却の彼方へと葬られた。人々は再び原初の食へと立ち返り、マナの恵み……魔法……と食とを分かつことを、固く、固く誓ったのである』――
食の塔の崩壊。技術と記憶の忘却。原初の食への回帰。魔法と食の分離。
これは……! 家庭教師がアリアに語った「食に溺れた文明の滅亡」と「食の禁忌」の話と、奇妙に符合する。
もちろん、これはあくまで一つの伝承であり、史実かどうかは分からない。だが、もしこれが事実の一端を示しているのだとしたら? この世界から高度な調理技術が失われ、「料理」という概念そのものが忌避されるようになった背景には、過去の「食の災厄」と、それに対するトラウマ的な記憶が存在するのかもしれない。
そして、それは魔法の扱いとも深く関わっている可能性がある。私が魔法を調理に応用し始めていることは、この世界の「禁忌」に触れる行為なのかもしれない……。
私は古文書を閉じ、深い思索に沈んだ。
これは、単なるアリアの治療を超えた、この世界の根源に関わる問題かもしれない。




