第8章4節: 語り始める過去
ハルカとの交流が深まるにつれ、アリアは少しずつ、自分のことについて語り始めるようになった。最初は、今日見た庭の花のこと、読んだ本(まだ簡単な絵本だが)の感想など、他愛のないことばかりだった。
だが、ハルカが根気強く、そして判断を下さずに耳を傾ける姿勢を見せていると、アリアは徐々に、病気になる前の、元気だった頃の思い出についても話すようになった。
庭で蝶を追いかけたこと、乗馬を習い始めたばかりの頃のこと、父である辺境伯と散歩した森のこと。楽しかった記憶を語るアリアの表情は明るいが、その端々に、失われた時間への寂しさが滲んでいるのをハルカは見逃さなかった。
そしてある日、アリアはぽつりと、例の家庭教師について語り始めた。
「……前の先生は、とても優しい人でした。でも、一年半くらい前に、新しい先生に代わって……」
そこでアリアの言葉は途切れ、表情が曇った。明らかに、その「新しい先生」との間に、何かがあったことを示唆している。
「その新しい先生は、どんな人だったのだ?」
ハルカは静かに尋ねた。アリアはしばらくためらっていたが、やがて小さな声で話し始めた。
「……とても厳しい人でした。勉強も、作法も、少しでも間違うと、すごく怒られて……。それに、いつも……いつも……」
アリアの声が震え始める。彼女にとって、それは思い出したくない、辛い記憶なのだろう。ハルカは無理に聞き出そうとはせず、アリアが自分のペースで話せるようになるまで、静かに待つことにした。




