第8章3節: アリアの小さな興味
ハルカの風変わりな「授業」は、アリアにとって新鮮な驚きと発見の連続だった。これまで、彼女が受けてきた教育は、貴族の令嬢としての作法や歴史、紋章学といった、退屈で形式ばったものがほとんどだったからだ。
色の変わる水、キラキラ光る結晶、夜空に広がる無数の星々の物語。ハルカが語る世界は、アリアが知っていた狭い世界とは全く違っていた。それは不思議で、謎に満ちていて、そして何よりも面白かった。
「ハルカさんは、どうしてそんなに色々なことを知っているのですか?」
ある日、アリアは素朴な疑問を口にした。ハルカは少し考えるそぶりを見せた後、静かに答えた。
「私は、知りたいからだ。世界の仕組み、物事の成り立ち、その根源にある法則……。それを知りたいという欲求が、私を動かしている」
「知りたい、という欲求……」
アリアはその言葉を繰り返した。病に伏せるようになってから、彼女の中から消え失せていた感情。何かを知りたい、何かをしたい、という前向きな気持ち。ハルカの話を聞いていると、その感情が、心の奥底で小さく、しかし確実に、再び芽生え始めているのを感じた。
特にアリアが興味を示したのは、ハルカが時折見せる「料理」の過程だった。栄養スープから始まり、徐々に変化していく食事。その調理の様子を、アリアはベッドの中から、あるいは椅子に座って、じっと観察するようになった。
「どうして、お肉を煮込むと柔らかくなるのですか?」
「このお野菜は、どうしてこんなに甘い味がするのですか?」
純粋な疑問。
ハルカはそれらに対し、コラーゲンのゼラチン化や、糖分の加熱による変化といった科学的な(アリアにも理解できるよう噛み砕いた)説明を与えた。アリアは目を輝かせて聞き入った。食べることへの興味が、調理そのものへの興味へと繋がり始めていたのだ。




