第8章1節: 回復の光と心の影
陽光が柔らかく差し込むアリアの部屋。
かつての薄暗く淀んだ空気は一掃され、清潔で明るい空間へと変わっていた。その窓辺の椅子に、アリアは静かに座り、庭の緑を眺めている。
一月前、ベッドの上で力なく横たわっていた姿が嘘のようだ。顔色は見違えるほど良くなり、痩けていた頬にも僅かにふくらみが戻っている。
私が部屋に入ると、アリアはすぐに気づいてこちらを振り向いた。その表情は穏やかで、以前のような虚ろさはない。
「ハルカさん」
「気分はどうだ、アリア嬢。今日も天気は良いな」
私は定期的な観察のために、日課のように彼女の部屋を訪れていた。差し出したのは、果物を軽く煮て、消化の良いデンプンでとろみをつけた、優しい甘さのデザートだ。
「はい、ありがとうございます。……今日は、前よりずっと良い気分です」
アリアは素直に受け取り、小さなスプーンでゆっくりと味わい始めた。そして、ふわりと微笑む。
「ハルカさんのご飯、とても美味しいです。毎日、楽しみなんです」
その言葉に偽りはないだろう。食事療法と環境改善は、明らかに功を奏している。身体的な回復は、ほぼ計画通りに進んでいると言っていい。
だが、私は見逃さなかった。会話が途切れた瞬間、アリアの表情にふとよぎる、微かな翳り。窓の外を眺める横顔に、時折見せる物憂げな色。まるで、何か見えない重荷を、心の奥底に抱えているかのような。
身体は回復に向かっている。しかし、魂はまだ、完全には癒えていない。根本原因の一つであろう「精神的ストレス要因」に、本格的に向き合う時が来たようだ。
「アリア嬢、少し退屈しているのではないかね?」
私は話題を変え、さりげなく切り出してみた。
「もし興味があるなら、何か退屈しのぎになるようなことでもするかね? 例えば、簡単な化学実験とか、あるいは、夜空の星の話とか」
私の突飛な提案に、アリアは少し驚いたように目を瞬かせた。そして、その瞳の奥に、ほんの僅かだが、好奇心の光が灯ったのを、私は確かに捉えた。




