第7章8節: ハルカの説得(あるいは論破)
私はグレイアムと共に、反発の中心となっている料理長と、古参の侍女頭を呼び出した。応接室のテーブルを挟み、私は彼らと対峙する。
「君たちの不満は聞いている。私のやり方が、君たちの経験や慣習と異なり、受け入れ難いと感じているのだろう」
私は静かに切り出した。二人はバツが悪そうな、それでいて反抗的な表情を崩さない。
「だが、問おう。《《君たちのこれまでのやり方で、アリア嬢の病状は改善したのかね》》?」
私の問いに、二人は言葉に詰まる。
「君たちの経験やプライドは尊重しよう。だが、ことアリア嬢の健康に関しては、結果が全てではないかね? 私の指示した方法――栄養バランスを考慮した調理、衛生管理、環境改善――によって、現にアリア嬢には回復の兆しが見え始めている。これは否定できない事実だ」
私は、アリアのスープを飲む量が増えたこと、顔色が良くなってきたこと、少しずつだが反応を示すようになったことなどを、具体的な観察結果として提示した。
「料理長殿、君の作る料理は、健康な者にとっては美味かもしれん。だが、今の衰弱したアリア嬢に必要なのは、君のプライドを満たす料理ではなく、彼女の身体が最も効率よく吸収できる栄養だ。味が薄いと感じるなら、それは君の舌が濃い味に慣れすぎているだけではないか?」
「侍女頭殿、君のアリア嬢を思う気持ちは理解する。だが、過保護が必ずしも本人のためになるとは限らん。新鮮な空気と適度な日光は、人間が生きていく上で不可欠な要素だ。君の『良かれ』が、結果的にアリア嬢の回復を妨げている可能性を考えたことはあるかね?」
私の言葉は、冷静だが、一切の妥協を許さない響きを持っていた。
二人は私の論理的な指摘と、反論を許さない気迫に気圧されたように押し黙った。
プライドの高い料理長も、経験豊富な侍女頭も、私の前では形無しだった。
「私の目的は、アリア嬢の回復、ただそれだけだ。そのために、最も合理的で効果的だと判断した方法を実行しているに過ぎない。君たちには、私情や旧弊な慣習を捨て、この目的に協力してもらいたい。それができないというなら……」
私はそこまで言って、言葉を切った。
その先を言わずとも、彼らには私の意思が伝わっただろう。
最終的に、二人は(不本意ながらも)私の指示に全面的に従うことを約束した。
力によるねじ伏せに近い形は、本来ならば反動も予想され、あまりよろしいことではない。
しかし今は結果を出すことが最優先だと考え、割り切ることにした。




