第7章6節: アリアの微かな変化
栄養スープの提供と環境改善を開始してから、数日が経過した。私は毎日、アリアの元へスープを運び、彼女の様子を観察し続けた。
アリアは依然として口数は少なく、表情も乏しいままだったが、いくつかの微かな変化が見られるようになっていた。
まず、スープを飲む量が増えた。
最初は数口だったのが、次第に器の半分以上を飲み干すようになった。時には、「……おかわり」と、か細い声で要求することさえあった。
顔色も、以前の青白さから、ほんの少しだけ血色が戻ってきたように見える。目の下の隈も、心なしか薄くなったような気がする。
そして、最も大きな変化は、彼女が私を見る目に、僅かながら「感情」のようなものが宿り始めたことだ。私が部屋に入ると、以前のように完全に無視するのではなく、目で私の姿を追うようになった。スープを差し出すと、戸惑いながらも、どこか期待するような表情を見せることもある。
ある日、私がスープを運んでいくと、アリアはベッドの上で上半身を少しだけ起こし、窓の外を眺めていた。部屋に差し込む午後の光が、彼女の金髪を淡く照らしている。私が来たことに気づくと、アリアは少し驚いたようにこちらを見た。
「……ハルカさん」
初めて、彼女の方から私の名前を呼んだ。
「どうした、アリア嬢」
「……あのスープ、今日も……?」
「ああ、持ってきたぞ」
私が器を見せると、アリアの口元に、ほんの一瞬、微かな笑みが浮かんだように見えた。それはすぐに消えてしまったが、私にとっては大きな進歩だった。
彼女の中で、何かが変わり始めている。
絶望に閉ざされていた心が、ほんの少しだけ、外の世界へと開き始めているのかもしれない。




