第7章4節: 初めての“まともな”食事
アリアの部屋へ栄養スープを運ぶと、彼女は相変わらずベッドの上で虚ろな表情を浮かべていた。侍女が「お食事の時間です、アリア様」と声をかけるが、アリアは力なく首を横に振るだけだ。
「……いらない」
食欲がないのだろう。
あるいは、これまで出されてきた食事が、彼女にとって苦痛でしかなかったのかもしれない。
私は侍女に下がるよう合図し、ベッドの傍らに椅子を置いて腰掛けた。そして、スープの入った器を手に取り、アリアに向かって静かに語りかけた。
「アリア嬢、これは私が君のために特別に作ったものだ。薬ではない。ただのスープだ。だが、君の今の身体に必要な栄養が、消化しやすい形で入っている」
アリアは反応を示さない。
「無理にとは言わん。だが、一口だけでも試してみてはどうだろうか。もしかしたら、少しは気分が良くなるかもしれん」
私はスプーンでスープを少量すくい、アリアの口元へとゆっくりと差し出した。優しい鶏と野菜の香りが、アリアの鼻腔をくすぐったのだろうか。彼女の瞼が、ぴくりと動いた。そして、ためらうように、ほんの少しだけ口を開けた。
私は慎重に、スープを彼女の口へと運んだ。アリアはゆっくりとそれを嚥下する。その表情に、大きな変化はない。だが、拒絶もしなかった。
私はもう一口、同じようにスープを運んだ。アリアは、今度もそれを受け入れた。三口、四口……。無言のまま、アリアは私が差し出すスープを、少しずつだが、確実に飲み込んでいく。
器の半分ほどを飲み終えたところで、アリアは小さく息をつき、再び目を閉じた。だが、その表情は、先ほどまでの完全な無気力状態とは、少しだけ違って見えた。ほんの僅かに、血の気が戻ったような……そんな気がした。
「……今日は、これくらいでいいだろう」
私は静かに呟き、残りのスープを片付けた。大きな進展ではない。だが、拒絶されなかったこと、そして、ほんの僅かでも栄養を摂取できたことは、確かな一歩だ。焦りは禁物だ。根気強く続けていくしかない。




