第7章2節: 厨房改革と料理人への指示
辺境伯の承認を得た私は、早速、治療計画の第一段階である「食事療法」に着手した。まずは、この館の食を司る厨房の改革からだ。
グレイアムに案内され、厨房へと向かう。館の規模に比して、厨房は広く、設備(巨大な竈、銅製の鍋、多数の使用人)も整っているように見えた。しかし、一歩足を踏み入れた瞬間、私は眉をひそめた。
衛生状態が、お世辞にも良いとは言えない。床には食材の屑が落ち、壁には煤がこびりついている。食材の保管方法も雑然としており、肉や魚、野菜が適切な温度管理もされずに置かれている。これでは、食中毒のリスクが常に付きまとう。
「……まずは、徹底的な清掃からだな」
私の呟きに、厨房を取り仕切る料理長――恰幅の良い、プライドの高そうな中年男性――は、むっとした表情を見せた。
「失礼ながら、ハルカ様とやら。我々は辺境伯家に長年仕える料理人ですぞ。衛生管理には十分注意しておりますが?」
「そうかね? 私の見立てでは、改善の余地が大いにあるように見えるが」
私は冷静に問題点を指摘していく。
床や壁の汚れ、食材の不適切な保管、調理器具の洗浄不足、そして使用人たちの手洗いの不徹底。
料理長は顔を赤くして反論しようとしたが、同行していたグレイアムが静かに咳払いをすると、不承不承といった体で口を閉ざした。
私は料理長と料理人たちを集め、基本的な衛生管理の重要性を説いた。手洗い、調理器具の熱湯消毒、食材の分別保管、そして何より、厨房全体の清掃の徹底。さらに、アリアのための食事については、今後、全て私の指示に従って調理するよう命じた。
「アリア嬢の食事は、栄養バランスと消化吸収を最優先する。使用する食材、調理法、味付けは全て私が指定する。異論は認めない」
料理人たちからは戸惑いや反発の視線も感じられたが、辺境伯の命令であること、そしてグレイアムの厳しい監視の目があることから、表立って逆らう者はいなかった。厨房改革の第一歩は、波乱含みながらも、こうして始まった。




