第7章1節: 辺境伯へのプレゼンテーション
アリアとの初対面と初期調査を終えた翌日、私は辺境伯とグレイアムを応接室に呼び出した。彼らの前には、私が昨夜のうちにまとめた調査結果と考察、そして治療計画案を記した羊皮紙(グレイアムに頼んで用意させたものだ)が広げられている。
「さて、辺境伯、グレイアム。昨日からの調査結果に基づき、アリア嬢の病状に関する私の見解と、今後の対処方針について説明する」
私は静かに切り出した。二人は緊張した面持ちで私を見つめている。
「単刀直入に言おう。アリア嬢の現在の状態は、単一の病気というよりは、複数の要因が複合的に絡み合った結果である可能性が高い。具体的には、第一に『慢性的な栄養失調』、第二に『不適切な生活環境』、そして第三に『精神的なストレス要因』。これらが相互に影響し合い、悪循環を生んでいるものと推測される」
私は専門用語を極力避け、彼らにも理解できるよう、一つ一つの要因について補足説明を加えた。食事内容の偏りがいかに身体機能の維持を困難にするか、換気や日光の不足がどれだけ心身に悪影響を及ぼすか、そして精神的な負担が食欲不振や倦怠感にどう繋がるか。
「これまでの治療が効果を発揮しなかったのは、恐らく対症療法に終始し、これらの根本的な原因を見過ごしていたからだろう。薬や魔法で一時的に症状を抑えても、土台となる身体そのものが弱っていては、根本的な解決には至らない」
私の説明を聞き終えた辺境伯は、憔悴した顔に深い困惑の色を浮かべていた。グレイアムもまた、難しい顔で考え込んでいる。
「……栄養? 環境? ハルカ殿、失礼ながら、そのような基本的なことで、長年娘を苦しめてきた病が本当に……? 我々は最高の医師や薬を……」
辺境伯が、すがるような、それでいて疑念に満ちた目で問いかけてくる。無理もない反応だ。
「辺境伯、人体というシステム……いや、機構は、適切な燃料(栄養)と適切な環境なくして正常に機能することはできない。これは最も基本的な原則だ。最高の医師も、土台が崩れていては力を発揮できない。私は、まずその崩れた土台を再構築することから始めるべきだと考えている」
私は自信を持って言い切った。
私の知識と観察に基づいた、合理的な結論だ。
辺境伯はしばらく黙って私の目を見つめていたが、やがて、意を決したように深く頷いた。
「……分かった。ハルカ殿の言うことを信じよう。これ以上、娘が苦しむのを見てはおれん。あなたの治療計画に、全面的に協力する。何なりと指示してくれ」
グレイアムもまた、静かに頷き、同意の意を示した。
最初の関門は突破した。これからが、本当の始まりだ。




