第6章5節: 初期診察と環境調査
アリア本人の観察と並行して、私は部屋の環境調査も開始した。グレイアムと侍女に指示を出し、まずはカーテンを開けさせ、窓を開けて空気を入れ替える。淀んだ空気を新鮮な外気と交換することは、基本的な衛生管理だ。
部屋に差し込む光の中で、改めてアリアの顔色を見ると、やはり血の気がなく、皮膚も乾燥している。爪の色も僅かに白っぽい。貧血の兆候か?
脈は弱く、速い。呼吸も浅い。体温は、手の甲で触れた感じでは微熱があるかないか、といったところか。腹部を軽く触診させてもらうと、少し張っているようだが、明確な痛みや抵抗はないようだ。
次に、侍女にアリアの普段の食事内容について詳しく尋ねた。記録帳のようなものはないか尋ねると、侍女は困惑しながらも、ここ数ヶ月間の大まかなメニューを思い出しながら話してくれた。
内容は、予想通り酷いものだった。
肉や魚は、焼くか、せいぜい塩茹でにする程度。野菜類も、生か、茹でただけのものがほとんど。味付けは塩が中心。パンは、やはり硬くパサパサしたもの。果物はたまに出る程度。栄養バランスという概念が、全く欠如している。これでは、必須ビタミンやミネラルが慢性的に不足していてもおかしくない。
部屋の環境も再度チェックする。壁の材質、床の敷物、ベッドの寝具。埃は溜まっていないか? カビは? 換気は十分に行われているか? 侍女の話では、アリアが塞ぎ込むようになってからは、窓を開けることも少なくなっていたという。
日当たりは悪くない部屋だが、カーテンを閉め切っていたため、日光浴もできていなかっただろう。ビタミンDの不足も考えられる。
「グレイアム、アリア嬢が発症する前後で、この館の環境、あるいは彼女の生活習慣に何か大きな変化はあったかね?」
私の問いに、グレイアムは少し考え込んだ後、答えた。
「大きな変化……と申しますと。そういえば、一年半ほど前に、アリア様付きの家庭教師が変わりまして……その頃から、少しずつ塞ぎ込まれるようになったような気もいたします」
家庭教師の交代。
それが精神的なストレスの原因となった可能性もあるか。
これも考慮に入れるべき要因だろう。




