第5章10節: 料理の連鎖と(不本意な)笑顔
ボルガンが帰った後、私は再び解決策を模索した。自分が料理を作るから騒ぎになるのだ。ならば、前回同様、技術を移転すればいい。
とはいえ、今回作った料理は、保存食よりも手順が複雑だ。村人全員に教えるのは現実的ではない。ならば、代表者に教え、その者が村に広めるという形が良いだろう。
適任者は……やはりリリアか。彼女は飲み込みも早いし、料理への興味も強い。そして、彼女の母親も巻き込めば、家庭料理として定着しやすいかもしれない。
私はリリアを呼び、事情を説明した上で、基本的な調理法(香辛料の使い方、米の炊き方、煮込み料理のコツなど)を教えることにした。リリアの母親――快活で働き者の女性だった――も、娘に説得され、最初は戸惑いながらも参加することになった。
私の小屋で、数日間にわたる料理指導が始まった。リリアも母親も、最初は慣れない調理に悪戦苦闘していた。火加減の調整、香辛料の分量、食材を切る手際。私が手本を見せ、理論を説明し、時には魔法で補助しながら、根気強く教えた。
やがて、二人は目に見えて上達していった。ぎこちなかった手つきは滑らかになり、味付けも安定してきた。そして何より、彼女たち自身が、美味しい料理を自分の手で作れるという事実に、心からの喜びと感動を見出すようになっていた。
「できた! ハルカさんのピラフみたいにはいかないけど、でも、美味しい!」
「まあ! この煮込み、本当に私が作ったのかしら……!」
母娘が顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべる。その様子を見ていると、私の口元にも、不本意ながら、ほんのわずかな笑みが浮かんでいることに気づいた。
「まったく……。また研究時間が削られていくではないか」
私はわざとらしくため息をつきながら、内心では、知識が伝わり、誰かの喜びにつながるという現象も、それはそれで悪くないのかもしれない、と少しだけ思い始めていた。
もちろん、研究時間の確保が最優先であることに変わりはないのだが。




