第5章5節: 研究中断と厨房(?)起動
小屋に戻り、買ってきた大量の食材をテーブルの上に広げる。香辛料、未知の野菜、果物、米、豆、魚醤もどき……壮観だ。研究のための道具が隅に追いやられ、完全に厨房のような様相を呈している。
「さて、と」
私は腕まくりをした。
エルフの腕まくりなど、そうそう見られるものではないだろう。
決めた。
今日一日は、研究を中断する。
目の前にある、この魅力的な素材たちと向き合うことにする。
これも広義のフィールドワークであり、異世界理解の一環だ。
決して、ただ料理がしたくなったわけではない。……断じて、だ。
まずは、買ってきた食材の下拵えからだ。未知の野菜は、皮を剥き、少量齧って味と毒性を確認。問題なさそうだ。水に晒してアク抜きが必要かどうかも試す。星形の果実は、そのまま食べても甘酸っぱくて美味しいが、加熱するとどうなるか。米は研ぎ、豆は水に浸しておく。
魚醤もどきは、匂いと味を確認。塩分濃度が高く、独特の旨味がある。これは使える。醤油もどきと合わせて、新たな調味料として活用できそうだ。
香辛料は、それぞれ少量ずつ炒ってみて、香りの変化を確認する。これをどう組み合わせるか……。
私の頭脳は、科学的な分析モードから、料理のレシピ構築モードへと完全に切り替わっていた。火加減は魔法で自在に操れる。水も浄化済みだ。調理器具はまだ貧弱だが、工夫次第で何とかなるだろう。
「リリア、カイ。今日は少し手の込んだものを作る。邪魔にならないように見ていなさい。あるいは、簡単な手伝いをしてもらうかもしれん」
私は傍らで目を輝かせている二人に声をかけた。
彼らにとっても、これは未知の料理との出会いになるだろう。




