第5章4節: 料理魂と衝動買い
未知の食材だけではない。別の露店では、意外なものを見つけた。
米だ。
前世で主食としていた、白く短い粒の穀物。
この世界にも存在するのか。
品種は異なるようだが、明らかに米だ。
その隣には、豆類もいくつか並んでいる。
レンズ豆に似たもの、ひよこ豆のような丸いもの。
さらに歩くと、大きな樽に入った液体を売る店があった。近づくと、独特の発酵臭がする。魚醤か? あるいは、何か別の発酵調味料か。
「これは……試さずにはいられないな」
私の思考は、もはや研究のことなど忘れ、完全に「食材」へとシフトしていた。あの香辛料を使えば、本格的なカレーが作れるのではないか? あの未知の根菜は、煮込み料理に合うだろうか? 星形の果実はデザートに? 米があるなら、炊き込みご飯やリゾットも可能だ。魚醤もどきがあれば、味付けの幅が格段に広がる。
気づけば、私は商人たちと交渉し、次々と食材を買い求めていた。
「この香辛料を一通り、少量ずつ。それと、この紫の根菜と星形の果実も。米も少し分けてくれ。あの豆も全種類。それから、その樽の液体も試したいのだが」
私の衝動的な買いっぷりに、リリアとカイは目を丸くしている。
「ハ、ハルカさん!? そんなにたくさん買ってどうするの!?」
「はっ、私はいったい何を……。こんなに買って、どうするんだ、これは……」
我に返った私は、抱えきれないほどの食材の袋を前に、少しだけ途方に暮れた。だが、その表情とは裏腹に、私の頭の中では既に、これらの食材を使った無数のレシピが、目まぐるしく構築され始めていた。
「まあいい。これも、この世界の食文化を理解するための、必要な調査だ。そう、《《調査なんだ》》」
私は自分に言い聞かせるように呟き、リリアとカイに荷物持ちを手伝わせながら、小屋へと戻ることにした。




