第5章3節: 市場の喧騒と未知との遭遇
リリアとカイに半ば引きずられるようにして、村の広場へ向かうと、そこは普段の静けさが嘘のような喧騒に包まれていた。広場にはいくつもの露店が立ち並び、様々な品物が所狭しと並べられている。村人たちも皆、興奮した様子で品定めをしていた。キャラバンの商人らしい、異国の言葉を話す者たちの威勢の良い声が飛び交っている。
色とりどりの布地、見たこともない意匠の装飾品、奇妙な形状の農具や武具。確かに、私の知らない文化圏の品々だ。観察対象としては興味深い。
私は人混みを避けながら、露店を冷ややかに眺めていた。その時、ある一角から漂ってきた匂いに、私の鼻がぴくりと反応した。それは、複数の香辛料が混じり合った、複雑で刺激的な香りだった。
匂いの元へ近づくと、そこには様々な乾燥した植物や種子、粉末などが並べられていた。香辛料の専門店らしい。
「これは……クミンか? こちらは……コリアンダーに近い。そして、この赤い粉末は……パプリカ? いや、もっと辛味がありそうだ」
前世で慣れ親しんだ香辛料に酷似したものがある一方で、全く未知の、それでいて魅力的な香りを放つものもある。
こういうものがあるということは、料理をする地域もあるということか? この世界は地域によって料理に対する知識の深度がばらばらなのかもしれない。これは興味深い研究対象だ。
しかし私の脳内は、すでにこれらの香辛料の組み合わせによる味の可能性が、勝手にシミュレーションを始めていた。これだけの種類があれば相当なレシピが再現可能だろう。
さらに隣の露店に目を向けると、そこには見たこともない野菜や果物が並べられていた。紫色の細長い根菜、星形をした黄色い果実、綿のような質感の白いキノコ……。
「なんと……これは!」
私の研究者としての好奇心と、料理人(=大家族の胃袋を預かっていた長女)としての探求心が、同時に強く刺激されるのを感じた。




