第5章1節: 思索の海と静寂の渇望
保存食教室の開催により、私の元へ「聖女様の恵み」を求めてやってくる村人は激減した。彼らは自分たちでジャーキーやジャムを作り、その味を楽しんでいるらしい。実に結構なことだ。
ようやく、私は念願だったまとまった研究時間を確保することができた。
小屋に籠もり、私は前世から持ち越した壮大なテーマへと意識を沈めていく。意識とは何か。それは物質からどのようにして立ち現れるのか。宇宙の構造、その起源と終焉。生命の本質とは。
これらの問いは、科学者として、哲学者として、私の探求心を根源から突き動かすものだ。
この世界の「魔法」という現象も、これらの問いと無関係ではないだろう。マナと呼ばれるエネルギー、精神による物理現象への干渉……これらは既存の物理法則の延長線上にあるのか、それとも全く異なる法則体系なのか。ボルガンを通じて入手したわずかな古文書を解読しながら、私は仮説を構築し、思索を巡らせる。
静寂。
思考に集中するためには、何よりも静寂が必要だ。
外部からの干渉を極力排し、純粋な知の探求に没頭する。
これこそが、私がこの転生に求めていた理想の環境……。
――その静寂は、突如として破られた。
「ハルカさーん! 大変だよー!」
小屋の扉を叩くけたたましい音と、リリアの興奮した声。私は深い思考の海から強制的に引き戻され、こめかみに青筋が浮かぶのを感じた。




