第4章10節: 深まる誤解と聖女のため息
数時間にわたる保存食教室は、大成功のうちに幕を閉じた。村人たちは、自分たちの手で作った(あるいは、ハルカが作った見本をもらった)ジャーキーやジャムを手に、興奮冷めやらぬ様子で口々に感想を述べ合っている。
「これで家でもあの味が楽しめるぞ!」
「作り方も教えてくれるなんて、ハルカ様はなんてお優しいんだ!」
「しかも、見返りも求めずに……。本物の聖女様だ!」
私の狙いは、あくまで自分自身の研究時間を確保するための「技術移転」だったのだが、村人たちには「聖女様が、その貴重な知識と技術を、無償で我々に分け与えてくださった」という、慈悲深い行為として受け取られたらしい。正直、複雑な気持ちだ。
ボルガンも満足げに頷いている。
「うむ、これで村の食料事情も安定するだろう。ハルカ殿、感謝する」
リリアも「ハルカさん、ありがとう! これでいつでも美味しいジャムが食べられる!」と満面の笑みだ。ジェイドも、他の若者たちと一緒に、自分で作ったジャーキーを少し照れくさそうに、しかし美味そうに齧っている。
村人たちの喜ぶ顔を見るのは、悪い気はしない。知識が共有され、生活が改善されるのは、合理的な観点からも好ましいことだ。
だが、しかし。
「聖女ハルカ様、万歳!」
誰かが叫んだのをきっかけに、広場は私を称える声で満たされた。感謝と、尊敬と、そして明らかに度を超した崇拝の念。
私はその中心で、ただ一人、深い、深―――いため息をつくしかなかった。
やれやれ、私の静かな研究生活は、一体いつになったら訪れるのだろうか。少なくとも、保存食作りに追われる日々からは解放されたはずだが、この「聖女」というレッテルが、次なる面倒事を引き寄せないとも限らない。
まあいい、それもまた観察対象だ。
私は人々の歓声を聞き流しながら、次なる研究テーマ――この世界における「本」と「文字」の解析――に思考を巡らせ始めていた。




