第4章7節: 既視感と遠い目
村人たちの要求に応えるため、私は不本意ながらも追加の保存食作りを始めた。
ジャーキー、ジャム、そして新たにキノコのオイル漬け(これも魔法で抽出した植物油を使用した)や、野菜のピクルス(これには酢もどきの開発も必要だった)など、レパートリーも増やさざるを得なくなった。
小屋の中は、様々な保存食の瓶や壺が並び、まるで食品加工場のようになってしまった。研究のためのスペースが、着実に食料生産スペースに侵食されている。大変不本意だ。
毎日、森へ食材を採取に行き、戻ってきては下拵えをし、魔法も駆使して調理・加工し、瓶詰めする。その合間に、やってくる村人たちの対応をする。気がつけば、一日が終わっている。研究のための本を読む時間も、魔法の原理を考察する時間も、ほとんど取れない。
「……なんのために、これをやっているんだ、私は」
ある晩、大量のベリーを煮詰めながら、私は思わず呟いていた。研究のために時間を確保したかったはずなのに、現実はその逆だ。村人たちの期待に応えなければ、という妙な責任感のようなものに縛られている自分にも気づく。非合理的だ。
その時、ふと前世の記憶が蘇った。
大家族の長女として、毎日毎日、大量の食事を作り、弟妹たちのために日持ちする常備菜や保存食を山のように作っていた日々。あの頃も、自分の時間はほとんどなかった。自分のやりたい勉強や研究は、いつも後回しだった。
「……あの頃も、こんな風に……ジャムを煮ていたな……」
気づけば、私は鍋の中を見つめながら、遠い目をしていた。あの頃の苦労と、それでも弟妹たちが喜んで食べてくれる顔を見た時の、ほんの少しの充足感。今の状況と、奇妙なほど重なって見える。
「ハルカさん? どうかしたの?」
いつの間にか来ていたリリアが、私の様子を不思議そうに見つめていた。
「……いや、何でもない」
私は思考を振り払い、ジャムをかき混ぜる作業に戻った。感傷に浸っている暇はない。この非効率的な状況を、どうにかして打開しなければ。




