第4章6節: 殺到する願いと聖女の困惑
噂が広まるにつれ、私の小屋には村人たちがひっきりなしに訪れるようになった。目的はただ一つ、「聖女様のありがたい保存食」を分けてもらうことだ。
「ハルカ様、どうかそのジャーキーを少しだけ……病気の母に食べさせたいのです」
「聖女様、あの甘いジャムをいただけませんか? 子供たちがどうしても食べたがるもので……」
「これを食べれば、狩りの成功間違いなしと聞きました! どうか!」
彼らは口々に、様々な理由(中には明らかにこじつけのようなものもある)を並べ立て、私の作ったジャーキーやジャムを求めてくる。
その目には、純粋な期待と、そして「聖女様ならきっと与えてくださるはず」という、ある種の確信めいた光が宿っていた。
私は困惑した。
これはあくまで自分用に、研究時間を確保するために作ったものだ。施しのために作ったわけではない。
それに、「食べれば元気になる」「ご利益がある」などというのは、完全な誤解だ。
栄養価が高いのは事実だが、魔法的な効果などあるはずもない。あってもプラセボ効果ぐらいだ。
「これは、特別な力があるものではない。単なる保存食だ。それに、これは私の……」
そう説明しようとしても、彼らは聞く耳を持たない。
「またまた聖女様はご謙遜を!」
「我々には分かります! これはありがたい恵みなのです!」
完全に「聖女フィルター」がかかっている。何を言っても無駄だと悟った私は、深いため息をついた。
とはいえ、目の前で期待に満ちた顔を向けられると、無下に断るのも気が引ける。特に、子供や病人のためと言われると、前世の記憶が疼くのか、つい「仕方ない」と思ってしまう。
結局、私はなけなしのジャーキーとジャムを、少量ずつ村人たちに分け与える羽目になった。もちろん、「効果は保証しない」「食べ過ぎないように」と念を押すことを忘れずに。村人たちは大喜びで受け取り、口々に感謝の言葉を述べて去っていく。
……これでは、保存食を作った意味がないではないか。
研究時間が確保できるどころか、むしろ対応に時間を取られている。
本末転倒だ。




