第3章6節: 水の分析と仮説構築
小屋に戻った私は、採取してきた水の分析を開始した。もちろん、精密な化学分析機器などない。五感と、手持ちの知識、そして簡易的な実験で判断するしかない。
井戸水と小川の水。それぞれを透明な容器(自作のガラス瓶もどき)に入れ、光に透かして観察する。濁り具合、沈殿物の有無。匂いを嗅ぐ。
小川の水は比較的澄んでいるが、微かに土の匂いがする。井戸水は……若干濁りがあり、僅かに生臭いような匂いも感じる。衛生状態に問題がある可能性が高い。
次に、簡易的なろ過実験を行う。布と、焼いて砕いた炭、砂利を重ねたフィルターで、それぞれの水をろ過してみる。井戸水からは、フィルターに微細な有機物らしきものが多く付着した。やはり汚染されている可能性が高い。
だが、これが直接の原因だろうか?
村人たちは長年この水を飲んできたはずだ。
なぜ今になって?
最近、何か環境の変化があったか?
例えば、大雨で汚染物質が流れ込んだとか……いや、最近は特に大きな天候の変化はなかったとリリアは言っていた。
汚染された水を飲んでも、必ずしも全員が発症するわけではない。体調や免疫力によって差が出る。しかし、三割近い発症率はやや高い気がする。
水が原因である可能性は否定できないが、これだけでは説明がつかない要素が多い。
私は記録した患者のデータを再度見直した。発症時期のばらつき、症状の強弱……。食中毒だとしたら、原因食材は何か? 皆が共通して食べたもの……。そうだ、あの硬いパン。村の主食だ。あるいは、干し肉か?
「待てよ……」
一つの仮説が頭に浮かんだ。水そのものではなく、水を使って調理した「何か」に問題があるのではないか? あるいは、特定の食材と、汚染された水との組み合わせによって、何らかの有害物質が生成される、もしくは増殖する……?




