第2章10節: 知識の価値と村の反応
「干し肉のハーブ煮込み」の衝撃は、リリアとカイ、そしてジェイドを通じて、瞬く間に村中に広まったらしい。元々不味いと評判だった干し肉が、ハルカの手にかかると信じられないほど美味しくなる――その事実は、村人たちにとって驚き以外の何物でもなかった。
それと同時に、私が森で集めている「変な草」――毒草や薬草に関する知識も、徐々に村に浸透し始めていた。私がリリアに「この赤い実は猛毒だから絶対に子供が口にしないように」と教えたこと、ボルガンとの会話で特定の葉に解熱作用がある可能性を示唆したことなどが、口コミで伝わったのだ。
ある日、村の子供が毒キノコを誤って口にしそうになったのを、事前にハルカから注意を受けていたリリアが寸前で防いだ、という出来事があった。また、熱を出した村人が、ハルカが「解熱作用があるかも」と言っていた葉を煎じて飲んだところ(もちろん自己責任で、だが)、症状が和らいだ、という話も出た。
これらの出来事が重なり、村人たちの私を見る目は、明らかに変化し始めていた。最初の頃の単なる好奇や警戒だけでなく、「ハルカは何か特別な知識を持っている」「もしかしたら、本当に聖女様なのかもしれない(※これはカイが吹聴しているらしい……困ったものだ)」といった、畏敬や期待のような感情が混じり始めたのだ。
もちろん、ジェイドのように依然として私を快く思わない者もいるし、ボルガンのように冷静に私を観察し続けている者もいる。だが、少なくとも村全体として、私の存在が「無視できないもの」となりつつあるのは確かだった。
私の知識が、この閉鎖的な村の常識を少しずつ揺さぶり始めている。それは、研究者としては興味深い現象だが、同時に、私の望む静かな研究生活からは、ますます遠ざかっていく予兆のようにも感じられた。
まあ、いい。
それもまた、観察対象の一つだ。
私は次の分析対象である鉱石サンプルを手に取り、思考を切り替えた。やるべきことは、まだ山ほどあるのだから。




