第2章9節: 初めての"美味しい"干し肉
数日が経過した。私は小屋での分析と、森での調査を黙々と続けていた。パン粥だけでは栄養バランスが悪いと考え、村で流通している干し肉を少量、リリアを通じて手に入れた。
案の定、それは非常に硬く、塩辛く、そして獣臭さが強い、お世辞にも美味しいとは言えない代物だった。おそらく、保存性を最優先し、味は二の次なのだろう。
「これも改善の余地がありすぎるな」
私は干し肉を分析した。塩分濃度が高い。タンパク質が変性し、硬化している。臭みの原因は血抜きが不十分か、あるいは特定の脂肪酸か。
これを美味しく食べるには、まず塩抜きと再水和が必要だ。私は干し肉を水に浸し、何度か水を替えながら一晩置いた。翌日、柔らかくなった肉を薄く切り、採取しておいた香りの良い葉(ハーブの代用)と共に、少量の水でゆっくりと煮込むことにした。石鍋では火加減が難しいので、焚き火の熾き火でじっくりと熱を通す。
煮込むうちに、獣臭さはハーブの香りに置き換わり、肉はさらに柔らかくなった。塩気も程よく抜け、代わりに素材の旨味が凝縮されたような、良い香りが漂い始める。
ちょうどその時、またしてもリリアとカイがやってきた。良い匂いに気づいたらしい。
「ハルカさん! なにこれ、すごくいい匂い!」
「お肉? お肉の匂い?」
目を輝かせる二人に、私は出来上がった「干し肉のハーブ煮込み」を少量、試食させてみることにした。
「……っ!?」
「おいしー!!」
二人の反応は、もはや見慣れたものになってきた。
リリアは言葉を失い、カイは歓声を上げている。
「こ、これ、本当にあの硬くてしょっぱいだけの干し肉なの……? 全然違う! 柔らかくて、変な匂いもしなくて、なんだか……すごく深い味がする!」
「うん! いつものお肉より、ずーっと美味しい!」
二人の感動ぶりに、私は内心で頷いた。やはり、調理法の問題だ。素材のポテンシャルを殺していたに過ぎない。
そこに偶然通りかかったのか、ジェイドまでが現れた。彼は良い匂いに気づきつつも、私への対抗心から素直に興味を示せない様子だったが、リリアに勧められ、不承不承といった体で一口食べる。
「……なっ……!?」
ジェイドの反応も、先の二人と全く同じだった。
顔を赤くして固まり、信じられないという表情で肉と私を交互に見ている。
彼のプライドが、未知の美味さによって粉々に打ち砕かれた瞬間だった。




