第2章6節: ボルガンとの対話
ボルガンは、テーブルの上に広げられた様々な植物サンプルと、私の分析作業の様子を、鋭い目で観察していた。その視線には、単なる好奇心以上の、探るような色が混じっている。
「見ての通りだ。植物の調査と分析を行っている」
私は手を止めずに答える。彼はリリアから私のことを聞いているのだろう。わざわざ様子を見に来たということは、やはり新参者の私を警戒しているか、あるいは利用価値を探っているか。
「ほう、植物の分析、か。リリアから聞いたぞ。お前さん、森で迷っていたカイを助け、奇妙な食べ物を与えたそうだな」
「奇妙、かね? 合理的な調理法を適用したまでだが」
「村の者にとっては奇妙だろう。……そのテーブルの上にあるもの、いくつか見覚えがある。中には毒を持つものもあるはずだが、知っていて集めたのか?」
ボルガンの問いは核心を突いていた。彼は元騎士だけあって、森の知識もそれなりにあるのだろう。
「当然だ。毒草、薬草、食草。全て区別した上で分析している。例えば、この赤い実は強い神経毒を含む可能性が高い。一方で、こちらの葉は解熱作用が期待できるかもしれん」
私は具体的な植物を指し示し、簡潔に説明した。私の淀みない説明と、毒草に対する明確な認識に、ボルガンの表情が僅かに変化した。警戒心が少し薄れ、代わりに驚きと興味が表れてきたようだ。
「……お前さん、何者だ? ただのエルフの旅人とは思えん知識だが」
「ハルカ・クラナリ。しがない旅の研究者だ」
私は肩を竦めて答える。ボルガンはしばらくの間、私をじっと見つめていたが、やがてふっと息をついた。
「ふん、研究者、か。まあいい。その知識、使い方を誤るなよ。森は恵みも与えるが、牙も剥く。特に、よそ者にはな」
忠告とも脅しとも取れる言葉を残し、ボルガンは小屋を去っていった。去り際の彼の目には、まだ完全な信頼はないものの、先ほどまでの敵意に近い警戒心は消えているように見えた。私の知識が、少なくとも彼に「無視できない存在」と認識させるには十分だったらしい。悪くない。




