第2章5節: 毒か薬か、分析開始
小屋に戻った私は、早速、採取してきた植物サンプルの分析に取り掛かった。テーブルの上に種類別に並べ、一つ一つ詳細に観察していく。形状、色、香り、質感。ルーペ(※簡単なレンズを自作してみた)で組織構造を確認する。
まずは、明らかに毒性を示すと思われる赤い実。少量、皮を剥いて果肉を観察する。強い刺激臭はない。断面から滲み出る汁を、石板の上で乾燥させてみる。結晶化するか? pHは? リトマス試験紙があれば……いや、代用品を探すか。紫キャベツに似た植物があれば、アントシアニン色素で簡易的な判定ができるかもしれない。
次に、薬効がありそうなアカネ科に似た植物。葉をすり潰し、水に溶かしてみる。苦味があるな。アルカロイドか? あるいは配糖体か。熱安定性は? 簡単な抽出と分離を試みたいところだが、器具がない。今は経験則と推論に頼るしかない。
リリアが言っていた「お腹がぽかぽかする実」。これは少量、齧ってみる。……! 舌にピリッとした刺激。やはりカプサイシン様物質か。含有量はそれほど多くないようだ。これは乾燥させれば、良い香辛料になるだろう。食事の改善に繋がる発見だ。
他にも、いくつかのサンプルについて同様の分析を行う。味見は極めて慎重に行い、毒性の兆候があれば即座に中断する。前世の知識データベースと照合し、類似の化合物や作用機序を推測していく。
この作業は、地道だが非常に興味深く、私の知的好奇心を刺激した。未知の物質を同定し、その性質を解き明かす。これこそが科学の醍醐味だ。
集中して分析を進めていると、不意に背後から声がかかった。
「……何をしている?」
渋く、低い声。振り返ると、そこには厳つい顔つきの、初老の男が立っていた。
少しだけ片足を引きずっている。
これは間違いないだろう。
おそらくリリアが言っていた、元騎士のボルガンだ。




