第13章9節: 共有される美味さと新たな日常
リリアは、生まれて初めてのラーメンを、あっという間に平らげてしまった。
額にはうっすらと汗をかき、満足そうな、そしてどこか名残惜しそうな表情で丼を見つめている。
「ハルカさん、これ……本当に美味しかった……! 村のみんなにも食べさせてあげたいなぁ……」
「ふむ。まあ、手間はかかるが、不可能ではないだろうな」
麺料理という新たな食文化の扉を開いてしまったリリアは、興奮冷めやらぬ様子で、ラーメンの作り方について矢継ぎ早に質問してきた。
私は、基本的な麺の打ち方やスープの取り方、そして「啜る」という食べ方のコツなどを、改めて丁寧に教えた。
その日の夕方、リリアは早速、母親と一緒に麺打ちに挑戦し、見事な(?)手打ち麺を作り上げたらしい。そして、ハルカ直伝(少し簡略化したが)の味噌スープで、家族みんなでラーメンを啜ったという。その時の騒ぎっぷりは、想像に難くない。
翌日からは、村のあちこちで、麺を打つ音や、ラーメンを啜る音が聞かれるようになった。もちろん、最初はぎこちなく、お世辞にも上手とは言えない啜り方だったが、子供も大人も、新しい「美味しくて楽しい食べ方」に夢中になっているようだった。
中には、ボルガンのように「むぅ、これはなかなか……慣れが必要だが、確かに美味い」と渋い顔で麺を啜る者や、ジェイドのように「へっ、こんな食い方、俺様にかかれば朝飯前よ!」と豪快に(そして盛大にスープを飛ばしながら)啜る者もいた。
「麺を啜る」という行為が、アッシュウッド村の新たな日常の風景の一つとして、少しずつ、しかし確実に受け入れられつつあった。
それは、私がもたらした、ほんの小さな文化変革だったのかもしれない。




