第13章7節: お行儀が悪い? 異文化の壁再び
私の問いかけに、リリアは少し戸惑ったように口を開いた。
「んー……あのね、ハルカさん。すごく美味しそうなのは分かるんだけど……なんだか、今日のハルカさん、ちょっと……お行儀が悪い、気がする……」
「……!?」
お行儀が悪い?
私が?
一体何のことだ?
私は自分の行動を振り返った。
スープをこぼしたわけでもない。
肘をついて食べたわけでもない。
口に物を入れたまま喋った覚えも……いや、それは少しあったかもしれんが、それほど行儀が悪いと言われるほどでは……。
リリアは、私の顔と、私が食べていたラーメンの丼を交互に見ながら、言いにくそうに続けた。
「その……食べる時に、ズルズルって……音を立ててる、から……」
音? ズルズル? ……ああ!
私は気づいた。麺を啜る音だ。
この世界に麺料理は存在しない。
故に、「麺を啜る」という行為そのものを、リリアは今、《《生まれて初めて見たのだ》》。
そして、彼女の文化圏の常識からすれば、「音を立てながら物を食べる」というのは、確かに行儀の悪い行為に分類されるのだろう。
しまった。
完全に無意識だった。ラーメンや蕎麦を食べる時、日本人が当たり前のように行う「啜る」という行為。
それが、異文化の人間から見れば、奇異に、あるいは不快に映るというのは、前世でもよくあった話だ。まさに、それと同じ状況に陥ってしまったのだ。
「あ、あのな、リリア。誤解しないでくれ。これは決して行儀が悪いわけではなくてだな。麺料理、特にラーメンというものは、こうして麺を勢いよく啜ることで、麺とスープと空気が口の中で一体となり、より一層風味が増し、美味しく感じられるという、非常に合理的かつ伝統的な食べ方なのであってだな……」
私は必死に弁明を試みた。日本の麺文化の奥深さ、啜ることの利点、
それが決して下品な行為ではないこと。
だが、リリアの表情は晴れない。
彼女の目には、明らかに「ハルカさん、言い訳している……」という色が浮かんでいる。
くそぅ、これは納豆の時以上の文化摩擦かもしれん……!




