第13章2節: 麺料理なき世界と新たなる挑戦
「もちろん、味噌ラーメンだ!」
私はウキウキとした表情で、小屋に併設した(というより、ほぼ占領した)厨房スペースへと向かった。
味噌ラーメン。
それは、前世の日本で私がこよなく愛した麺料理の一つ。濃厚な味噌スープと、それに絡む弾力のある麺、そして多彩な具材が織りなす、まさに小宇宙。これを異世界で再現せずして、何のための味噌開発か!
だが、ここで一つ、大きな問題があった。
この世界には、私が知る限り「麺料理」という概念が存在しないのだ。アッシュウッド村はもちろん、辺境伯の館でさえ、小麦粉を練って細長く加工し、それを茹でて食べるという発想は皆無だった。
パンや粥はあるが、麺はない。
この衝撃の事実に気づいた時、私の料理人としての魂は、逆に燃え上がった。
「ないのなら、作ればいい」。
そう、私は味噌と同時に、ラーメン用の麺の開発にも着手していたのだ。
麺作りは、想像以上に困難を極めた。
まず、原料となる小麦粉。
この世界の硬麦はグルテン含有量が低く、強いコシを出すのが難しい。私は様々な穀物の粉をブレンドし、最適な配合を探った。
さらに、コシを出すための「かん水」の代用品。前世では炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが主成分だが、この世界でそれらを精製するのは容易ではない。私は木灰の上澄み液(アルカリ性を示す)を少量加えたり、あるいは特定の鉱石(これもアルカリ性を示すもの)の粉末を微量混ぜたりと、丹念な試行錯誤を繰り返した。
生地を練る工程も重要だ。
水加減、捏ね時間、そして熟成時間。
エルフの力である魔法による温度・湿度管理を駆使し、ようやく納得のいく麺生地が完成した。
それを薄く延ばし、包丁(これも自作の、麺切りに適した形状のものだ)で細く切りそろえる。
美しい黄色みがかった、手打ちの中太縮れ麺。
これもまた、私の努力の結晶なのだ。




