第11章6節: 黒魔術師ハルカ? 噂の真相
リリアが慌てて帰っていった翌日。
村の空気が、どこかおかしいことに私は気づいた。
村人たちが、私を遠巻きに見ている。そして、ひそひそと何かを囁き合っている。その視線には、以前の「聖女様」への崇敬とは異なる、恐怖と疑惑のようなものが混じっていた。
「一体、何事だ?」
不審に思った私が、ボルガンに事情を尋ねると、彼は苦虫を噛み潰したような顔で教えてくれた。
「……ハルカ殿、どうやら、村に変な噂が広まっているようだ。『ハルカ様は、実は聖女などではなく、腐ったものを操る黒魔術師、あるいは怪しげな薬を作る錬金術師だったの』と……」
黒魔術師? 錬金術師? 全くもって意味が分からない。
さらに詳しく聞き込み(というより、リリアを問い詰めた)結果、事の真相が判明した。どうやら、昨日私の小屋を訪れたリリアが、家に帰って母親にこう話したらしい。
「あのねあのね、今日のハルカさん、なんだかおかしかったんだよ! 糸を引く腐ったお豆を、それはそれは美味しそうに食べてたんだよ! しかも、全然臭くないって言うの! あれはきっと、何か特別な魔法に違いないわ!」
このリリアの(悪気はないのだろうが、多分に脚色された)発言が、村人たちの間で尾ひれがつき、いつの間にか「ハルカ=腐ったものを平気で食べる怪しい術者」という、とんでもない噂へと発展してしまったようなのだ。
「……困ったな」
私は頭を抱えた。
別に、聖女と呼ばれようと黒魔術師と呼ばれようと、私自身はどうでもいい。
だが、私の愛する納豆が、「腐った豆」「怪しげな魔法の産物」などと貶められるのは、断じて本意ではない。これは、納豆の名誉にかけて、誤解を解かねばならない。




