第11章4節: 至福の納豆ご飯
そして、運命の一日後。私は緊張しながら保温箱を開け、藁苞を取り出した。藁の香りと共に、あの独特の、しかしどこか懐かしい納豆の香りが、ふわりと漂ってきた。
藁を開くと、そこには見事に白い膜をまとい、粘り気のある糸を引く、紛れもない「納豆」があった。
「……できた……! ついに、この異世界で納豆が……!」
私は感無量だった。
早速、この至高の食材を味わうべく、準備に取り掛かる。
まずは、米だ。
以前キャラバンから入手し、大切に保管していた米を研ぎ、土鍋で丁寧に炊き上げる。炊き立ての、つやつやと輝く白いご飯。
そして、醤油もどき。
これも私が試作を重ねてきた、木の実の発酵液ベースの自信作だ。
熱々のご飯を茶碗によそい、その上にたっぷりと納豆を乗せる。
醤油もどきを数滴垂らし、箸でよくかき混ぜる。
粘り気のある糸が、ご飯と納豆を一体化させていく。
私は深呼吸一つし、その納豆ご飯を、一口、口に運んだ。
「……!」
言葉が出ない。
《《ただ、美味い》》。
大豆本来の旨味、発酵によって生まれた複雑な風味、そして醤油もどきの塩味とコク。それらが、ほかほかご飯の甘みと一体となり、口の中で至福のハーモニーを奏でる。決して派手な美味さではない。だが、日常に根ざした、素朴で、力強い、そしてどこまでも優しい旨味だ。
噛みしめるたびに、前世の記憶が蘇る。
大家族で囲んだ朝の食卓。
騒がしくも楽しい、あの日常。
ご飯、生卵(この世界では殺菌処理が不十分なので生食はできないが……)、納豆、お味噌汁(これも作りたいものだ)、たくあん……。
私はしばし、うっとりと目を閉じ、この異世界で再会できた奇跡の味を、ゆっくりと、そして深く噛みしめていた。




