第11章1節: コーヒーブレイクと衝撃の発見
アッシュウッド村での研究生活は、相変わらず多忙だが、それなりに軌道に乗ってきた。
文献調査、魔法の基礎解析、そして時折舞い込む村人からの相談事(その多くは私の専門外だが)。
私は日課のように、思考を整理するために「コーヒーブレイク」を取ることにしていた。
もちろん、この世界にコーヒー豆があるわけではない。だが、以前キャラバンから入手した豆の中に、焙煎するとコーヒーに似た香ばしい香りを放つものを見つけ、それを細かく砕いて愛用していたのだ。
その日も、私は自作のフィルターで丁寧に淹れた「コーヒーもどき」を片手に、小屋の隅にある備蓄庫の整理をしていた。
保存食の在庫確認と、新たな食材の保管場所の確保のためだ。そこで、私はある異変に気づいた。先日、村人から分けてもらった大豆(この世界にも存在するらしい)の一部が、何やら白い膜のようなものに覆われ、独特の匂いを放ち始めている。そして、よく見ると……糸を引いている。
「こ、これは……!?」
私は思わず声を上げた。この粘り、この匂い、そして豆の表面の状態。前世の記憶が、鮮明に蘇る。間違いない。
「まさか……この世界にも、《《納豆菌が存在している》》というのか……!?」
衝撃だった。
納豆。
前世の日本で、私がこよなく愛した発酵食品だ。
独特の風味とネバネバ感、そして白米との至高のハーモニー。
それが、この異世界で再現できるかもしれないという事実に、私の心は(研究者としての冷静さを一時的に忘れ)激しく高鳴った。




